魔術師




 変わらない小さなモニターを穴が空くほどに凝視する。変わったのは時間(とき)を刻むものだけ。

 PM10:32

  2分。約束の時間をたった2分過ぎただけ。

 なのに、不安は耐えられないものへと変貌していた。

 未だ帰っていないのかも。
 もしかして仕事が忙しいのかも。
 それとも……忘れてしまったのかな。

 ぎゅっと手の中の携帯電話を握り締める。鳴らない…沈黙したままの携帯電話。
 約束の時間は10時30分。
 2分…遅れたとは言えない、ほんの僅かな時間。なのに、何故それがこんなにも長く感じられるのだろうか。

 どうしたんだろう。
 もしかしたら……何かあったのかも知れない。
 何かって何が?
 ……事故?
 そんな筈ないよね……じゃあ、何故?

 嫌ワレタノカモ。
 他ニ好キナ人ガデキタノカモ

 ぞくっと背筋が凍る。
 ぶんぶんと頭を振ってみるが、そんなことで一度悪魔に魅入られた想いは消えない。それどころか益々深みに落ちるばかりだ。

「馬鹿……」

 溜め息と共に零れ落ちた呟き。

 馬鹿なのは自分自身。
 そんな些細なことで不安になってしまう……そしてあの人の想いを疑ってしまう、自分の弱さ。
 堪えきれない想いが涙に変わり、頬を伝った。

 その瞬間、握り締めていた携帯電話から流行の音楽が流れる。
 表示される番号と名前。
 一瞬にして消え去ってしまった不安と……寂しさ。
 慌ててボタンを押し、携帯を耳へと押し当てる。

「もしもし……」


 


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祐浬 2000/7/1