White Love
†† vol.3 ††



 
――PM10時――

「やはり…2人で何処かに出かければ良かったんじゃないかのぅ」

 申し訳なさそうな目で自分達を見つめるギルモア博士に、ジョーとフランソワーズはちらりと視線を合わせ、恥ずかしそうに微笑む。

「まぁ、博士。私達とのクリスマスはお嫌ですの?」
「そ、そうは言っておらん。ワシはただ……」

 フランソワーズの言葉に、ギルモア博士は慌てふためく。

 嫌な筈が無い。
 寧ろ、彼等と共にこんなにも穏やかで賑やかなクリスマス・イヴを迎えられるのは、博士にとっては何物にも変えられない喜びだった。

 地下帝国ヨミでのBGとの死闘。
 宇宙(そら)へと放たれた悪意を潰す為に、たった1人の「犠牲」となることを決意したジョー。
 手の届かない場所へ行ってしまった彼を求め、焦がれ、半狂乱になって泣き続けたフランソワーズ。
 ジョーを救うべく、無茶を承知で飛び立った002。

 絶望に打ちひしがれ、立ち竦んだ瞬間(とき)。

 だが……彼等の笑顔は、1つも欠ける事無く、今ここに在る。
 それだけで、もう充分だった。

「折角のイヴなのじゃから、ワシ等に気を遣わずとも……」
「私達、気を遣ったりしていません。ね、ジョー」
「うん」

 同意を求められて、ジョーは即答する。

 本当に気を遣っている訳じゃなかった。
 2人っきりのイヴを全く焦がれていないと言えば嘘になるが、それ以上に皆と共にこの夜を迎えたかった。

 今年のイヴは全員で…。
 皆の笑顔に包まれて過ごしたい。

 それが、2人の偽らざる望みだった。

「僕も、皆と一緒の方が……」

 ジョーは酒で色付いた頬を更に赤く染め、照れ臭そうに自分の気持ちを短い言葉で告げる。

 家庭や家族を知らずに育ってきたジョーにとって、今夜は初めての『家族』と一緒に迎えるイヴだった。
 信頼できる兄弟(仲間)たちと、父親のような存在の博士、そして最愛の女性(ひと)と共に迎える聖夜は、ジョーにとってはアルコールよりも酔える甘美な時間だった。

「それなら良いんじゃがのぅ」

 ギルモア博士は胸に痞えていた危惧を小さな溜息と共に吐き出す。
 彼等が幸せなら……それで良い。

 陽が落ちると同時に酒のピッチが上がり、ジョーとフランソワーズ、ギルモア博士の3人を覗く全員が既に酔い潰れ、リビングのソファーや床で尽く屍と化していた。(001は夜の時間で熟睡中)

「ワシも流石に酔ったようじゃ。先に部屋で休ませて貰うよ」
「ええ。博士、おやすみなさい」
「おやすみ」

 博士は穏やかに笑うと、壁に手を付きながらゆっくりと扉へ向かう。

「僕、博士を部屋まで送って行くよ」
「あ。帰りに皆にかけてあげる毛布を取って来てくれる?」
「ああ」

 ジョーは足取りのおぼつかない博士へと駆け寄ると、その肩を支え、共に部屋を出て行った。

 ジョーと博士が扉の向こうへと消えるのを見送ると、フランソワーズはテーブルいっぱいに散らばった食器やグラスを手際良く重ね、トレイに乗せられるだけ乗せるとキッチンへと運ぶ。

 途中、ふらりと躯が傾いた。

「あ…」

 何とか食器は落さずに済んだものの、フランソワーズは自分の平衡感覚が少し狂っている事を自覚する。

(やだ、酔いが回ったかしら…)

 確かに躯は火照り、意識もふわふわしている。

 いつもはあまり嗜まない酒を、その場の雰囲気に乗せられてかなり飲んでいるのだから酔っていて当然だったが、こんなにも強くアルコールに支配されてしまっているとは思わなかった。

 本格的な後片付けは明日やるにしても、汚れた食器ぐらいはキッチンに下げておきたい。

(少し醒まさなくちゃ…)





 博士を部屋へ送って行き、毛布を6枚持ってリビングに戻って来たジョーは、皆を起さないように気を付けながら1人1人に毛布をかける。

 誰もが幸せそうな顔で眠っていた。

 楽しかったのは、皆同じ。
 自分だけが楽しかった訳では無く、誰もが同じように幸せな時間を過ごしたのだと思うと、ジョーは嬉しかった。

(ずっと……ずっと、こんな時間が続けば良いのに…)

 いつBGが復活するか分からない…いや、BGだけでは無く、新たな敵がいつ現れるか分からない。
 明日には戦いに身を投じなければならないかも知れない。
 この平穏は一時の幻なのかも知れない。

 けれど…
 この平和が永遠に続く可能性だってある。

 それを信じるのは……決して愚かな事では無い。
 例え、幾度、その期待が踏みつけられようとも、その「願い」は捨てたくなかった。

(もう…失いたくない……)

 ジョーは密かに強く拳を握った。

 失いたくない。
 仲間や恋人は勿論……自分にとっては掛け替えの無い大切なものは、もう何1つ失いたくなかった。

 部屋の隅に飾られているクリスマスツリー。
 派手に飾り付けられたそのツリーを彩る、白い綿の雪化粧。
 ちかちかとカラフルに瞬く電飾が、そのまやかしの雪をほんのりと色とりどりに輝かせていた。

 ジョーの脳裏に、鮮やかに幾つかの過去が蘇る。

 雪の中で、離されてしまった手(絆)。

 雪の中に、散らせてしまった生命(いのち)。
 
(……これ以上、僕から奪わないで)

 ……奪わせないで。


 

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祐浬 2002/12/22