Sweet Kiss
〜 Christmas Special Story 〜


― Story by Yuuri ―

 

†† Act.1 Francoise  ††


ねぇ、ジョー。
……たくさん、キスをくれる?


貴方の暮らすこの国が、私の生まれた国と違う事は分かってる。
この国では「挨拶」のキスは無い。
道端で気軽にキスを交わす事も無い。


キスは「特別」なこと。


だけど、
貴方はシャイで「言葉」もくれないでしょ?


責めている訳じゃないのよ。
貴方の気持ちを疑っている訳でも無いわ。


言いたいことの半分も言えてない貴方を…
…そんな貴方だから好きになったの。


それに、「言葉」にはならない想いを、
貴方は瞳に色濃く映すから……。
私はその瞳に映った自分を見て、幸せを感じる事が出来る。


でも、ね。
時々で良いから…
…愛されてる事を感じさせて欲しいの。


「言葉」じゃなくて良いから…
「言葉」に変わらなかったその想いの欠片を、キスでくれる?


頬や額へのキスでも、
触れ合うだけのキスでも、
……恋人同士のキスでも。


ねぇ、ジョー
……キスして。

 

 

 

†† Act.2 Joe  ††


フランソワーズ、
僕は…君をちゃんと愛せてる?


僕の想いは君へと伝わっているかい?


君への想いは、
どんなに言葉を重ねても…
幾度ひとつに溶け合っても…
…伝え切れはしないけど。


尚更、僕は…上手く言えないから…


でも…
君も、思っていることの半分も
「言葉」にも「態度」にも変えてくれないよね。


「愛してる」とか「好き」とは言ってくれるけど、
僕を求める言葉は、僕が促さないと「言葉」にはならない。


フランソワーズ、
僕は君に幸せを与えられている?
本当に君を満足させられてるかい?

その美しく澄んだ碧い瞳の奥で、
君は何を考えているの?
何を望んでいるの?


こんなふうに、直ぐに不安になってしまう僕はやっぱり子供だね。
今でも君を独り占めしているのに、
それ以上を望むのは罪かい?


だけど…
…少しでも君の気持ちを確かめたくて。
永遠にこの腕に閉じ込めておきたくて…
絶えずそのぬくもりを感じていたくて。


フランソワーズ、
…今、キスして良いかい……?


 

 

 

†† and...Act.3  ††


 自分の躯の内側(中)に感じる、自分以外の者の温度と湿度。


「あ……んっ…」


 ゆっくりと、滑らかに…それでいて深く、抉るように…容赦無く自分を味わうジョーの舌に、フランソワーズは錯覚では無く本当に眩暈がした。
 彼の舌に…唾液に…もしかしたら、そんな効力があるのかも知れない。そんなふうに改造されたのでは無いかと思うほどに、自分の躯の自由も意識も急速に奪われていく。


(どうして…)


 2人だけの時間でなら強引な事も意地悪な事もあるが、ジョーがこんな街中であれほど積極的なのは初めてだった。


(もしかして…聴こえた、の……?)


 心の奥底で願った想いが、彼に通じてしまったのだろうか。


(そんな筈…無い)


 聴こえる筈が無い。
 言葉にもしてもいないし、無線にも乗せてはいない。
 だから・・・届いてはいない。


 ――キスして――


 けれど…
 言葉にしなくても、無線を使わなくても…もしかしたら、伝わってしまうのかも知れない。
 彼への想いは、どんな秘めても、隠しても…この躯から溢れてしまっているから。


(でも……駄目)


 頭の片隅に微かに残った理性で、フランソワーズは懸命に顔を横に背けようとする。
 それに気付いたジョーは、あっさりとフランソワーズのマシュマロのような唇を開放する。


 途端に戻って来る、街のざわめき。
 人の往来の激しい場所での…大胆過ぎる口付け。
 だがそれは…本当は僅かな時間だった。


「もうっ……駄目よ。こんな所じゃ…」


 しっとりとした大人の女性の表情と、恥らう純情な子供のような表情が微妙に入り混じった、魔性の顔。
 微かに震える唇は濡れ、その澄んだ碧い瞳も潤んだままで、濃厚なキスの余韻を孕んでいた。


「こんな所じゃ? それなら、ベッドの上ならどんな事でもOKかい?」
「っ!? そ、そんな事、言っていないわ」


 フランソワーズは恨めしげにジョーを睨むと、彼の逞しい胸に拳を落す。


「やめて…恥ずかしいじゃない。皆、見てるわ」
「見たい奴には見せてやれば良い。どうせなら、もっと見せ付けてやろうか?」
「ジョーっっ!!」


 更にとんでも無い事をさらりと耳元で囁かれて、フランソワーズは見事に朱に染まった。


 ジョーはフランソワーズの躯をすっぽりとジャケットの中に捕らえたまま、くすっと悪戯っぽく微笑むと、「ごめん」と口だけの謝罪を返す。
 すると、フランソワーズは益々頬をぷうぅっと膨らませた。


「全然悪いと思って……え?」


その瞬間、
 一粒の白い結晶が、2人の些細な喧嘩を宥めるように、ふわふわと2人の僅かな隙間に舞い降り……。ジョーの胸に添えていたフランソワーズの白い指に留まり、小さな水滴に変わる。


「あ…」


 フランソワーズは誘われるように空を仰ぐ。
 くすんだ鉛色の空から次から次へと零れ落ちて来るのは、小さな小さな純白の欠片。


 フランソワーズはその正体が自分の想像通りだと悟ると、キラキラと子供のようにその瞳を輝かせた。


「ジョー、見て見て! 雪だわ」
「初雪、だね」


 ジョーは天を仰ぐ事無く、嬉しそうなフランソワーズの顔を微笑んで眺め続ける。


(ちょっと大胆だったかな…)


 賑やかな街。こんな場所でキスを交わすなんて、我ながら大胆だったとジョーは密かに思う。


(魔法にでもかかったのかな……)


 心が沸き立つのは、今日が特別な日だろうか。
 華やか且つ幻想的に飾られた街と音楽が、日頃在る枷を取り去ってしまったのだろうか。


 あの瞬間……キスしたくて仕方が無かった。
 彼女に触れて、そして確かめたかった。


(何を?)


 愛しい者の存在を……その生命(いのち)を…
 そして、
 自分が確かに此処に在る事を……。


 段々と激しく舞い降る雪の粒が、彼女の柔らかな亜麻色の髪に、未だ色付いたままの頬、そして…チェリーピンクの唇に触れる。
 それを見たジョーの心の底に、漆黒の針がちくりと刺さった。


 その雪が水に変わるよりも早く、ジョーは彼女の唇を己の唇で塞ぐ。


(許さない。彼女の唇は……彼女は誰にも渡さない)


 舞い落ちる真っ白な粉雪(ヴェール)が、再び唇を溶け合わせる2人を、雑踏からそっと包み込み隠した。




†† Christmas Special Story ††
― Story by Yuuri & Illustration by Shion ―



Back