思い出と共に…




 ドルフィン号が………沈む。

 考えてもいなかった。
 ドルフィン号が奴等に撃沈されるなんて……。

 ずっと……
 ずっと一緒に戦ってきた。

 戦いの道具としてBGに生み出された漆黒の最新鋭機。
 本来ならBGの手先として、数々の悪事に加担させられていただろう。
 だけど、貴方は私達と共にBGを裏切り、奴等と戦う運命を選んでくれた。
 ……私達と同じように。

 ドルフィン号…
 貴方も大切な、大切な……仲間、よ。

 ずっと……。





「フランソワーズは!?」

 サイボーグマン達との戦いを一先ず断念し、ドルフィン号から脱出する為にモングランの格納室へと走り込んだジョーは、真っ先に最愛の女性であるフランソワーズの姿を探す。

「003は操縦室じゃ」

 008に抱えられるようにして格納室へ走りついたギルモア博士が、荒い呼吸の隙間縫って彼女の居場所をジョーに伝える。

「何だって!?」
「スマン、009。俺も引き止めようとしたんだが……。大事なものを忘れたって言って」
「っ!!」

 008の言葉に、ジョーはさあっと顔色を変える。
 ドルフィン号に残された時間は、もう僅かしか無い。

「皆は先にモングランへ。フランソワーズは僕が……。間に合わなかったら、先に脱出していてくれ」

 ジョーはそう言い残すと、加速装置のスイッチを噛んだ。





 ドルフィン号はかたかたと小刻みに震えていた。
 まるで最後の瞬間に怯えているようだった。

「……もう、少し……お願い、届いて」

 フランソワーズは操縦席の上で懸命に背伸びをし、右手を伸ばして、それを捕らえようとする。
 が、振動に翻弄され、ゆらゆらと揺れるそれは、虚しく彼女の指をすり抜けてしまう。
 届きそうで届かない。捕まえられそうで触れることが出来ない。
 歯痒さと悔しさが涙に変わった。

 溢れてくる涙の理由は、キーホルダーが取れないからじゃない。
 ドルフィン号をこんなにしてしまった自分が歯痒くて…
 大切な思い出の場所(もの)が、また1つ消えようしている事が、悔しかった。

 卑劣なBGが許せなかった。

(泣いてる場合じゃ無いわっ 急がなきゃ!)

 フランソワーズは手の甲で涙を拭うと、再びそれに……天井に吊り下げられたイルカのキーホルダーへと指を伸ばした。
 あと、10センチ……

 5センチ……

 3センチ……2センチ……1センチ

 指先がキーホルダーに微かに触れたその瞬間、フランソワーズの視界が一瞬、暗転した。
 次の瞬間には……自分は誰かの腕に捕らえられていた。
 良く知っている感触だった。

「フランソワーズ!!」
「ジョー!?

 フランソワーズは慌てて、彼を見つめる。
 赤茶色の澄んだ瞳に浮かぶのは、怒りと安堵。

「もう時間が無い! 急ぐよっ」
「待って!! お願い。どうしても、あれを持って行きたいの!」

 再び加速装置を使おうとする彼に、フランソワーズは懇願する。

「あれ?」

 ジョーはフランソワーズの視線の先にあるキーホルダーに気付く。
 それは以前に彼女が「殺風景だから」と飾った、小さなイルカのキーホルダー。
 その後の激しい戦いの影響で、傷だらけにはなってしまったが、その愛くるしいつぶらな瞳はあの時と少しも変わらず優しげに自分達を見下ろしていた。

「どうしても、持って行きたいの。この船は……ドルフィン号はもう助けてあげられないけど……。もう一緒には居られないけど……せめて……せめて、あのキーホルダーだけは、これからも私達と一緒に…」

 フランソワーズは懸命に言葉を繋ぐ。
 彼女の大きなマリンブルーの瞳から、真珠のような大粒の涙が、ぽたぽたと零れ落ちる。

「お願い、ジョー……」
「……フランソワーズ」

 フランソワーズの想いが、ジョーにも真っ直ぐに伝わる。
 彼も……いや、誰もが同じ気持ちだった。
 出来ることなら……このドルフィン号を救ってあげたい。
 今まで自分達と共に戦ってきてくれた船を、暗い海の底になど沈めたくは無い。
 多くの大切な思い出の刻まれた場所を、失いたく無い。

 だが………最早、自分達にはどうする事も出来なかった。

 自分がサイボーグマン達の侵入さえ防いでいたら、こんな最悪な事態は回避できていた筈だった。
 ジョーは自分の不甲斐なさを改めて実感する。
 彼女を泣かせてしまっている自分が許せなかった。

「分かった」

 ジョーは小さく頷くと、フランソワーズを腕から開放し、とん、と軽やかに床を蹴ってジャンプすると、いとも簡単にキーホルダーを手の中へと収め、掛けられている金具ごと引きちぎった。
 そして、それを彼女へ差し出す。

 フランソワーズは嬉しそうに……愛しそうに目を細めると、彼の掌からキーホルダーを摘み上げ、両手の中に包み込み、胸の前でぎゅうっと握り締める。

「……ありがとう」

 彼女の口から零れた感謝の言葉。

 それは……ドルフィン号へのメッセージ。

「行こう、フランソワーズ」
「ええ」

 2人は手を繋ぐと、仲間の待つ場所へと駆け出した。


― Fin ―
 


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祐浬 2002/9/2