RE…


†† Story by Yuuri & Illustration by Shion ††










 蛇口を捻り、勢い良く流れ落ちる水で乱暴に顔を洗う。

 仲間との決闘や爆発に巻き込まれた痕跡を洗い流すため――と、もっともらしい理由をつけて席を立ってきたが、本音は飽和しかかった思考を解し、頭と心の整理をつけたかったから、だった。
 だが、顔を洗ったところで混乱が消え去りはしないことも同時にわかっていた。

(……しっかりしろっ)

 ささくれ立つ気持ちを無理に抑え込み、顔を上げ、正面を見据える。
 そこには、癖のある髪をぐっしょりと濡らし、束になってしまっている毛先や顎からぽたぽたと雫を滴らせている男性が自分を見返していた。

 それは間違いなく、『自分』

 そう理解できるのに、心の奥底に強烈な違和感がこびり付く。

 感じる水の冷たさは現実(リアル)なのに、何もかもが儚く、遠く感じる。

 ――― これが、本当に自分なのだろうか?―――

 自分は夢(偽りの記憶)から醒めたのだろうか?
 もしかしたら、今この瞬間の方が……高校生である島村ジョーの夢なのではないだろうか?

 目覚めたら、何もかもが消えてしまうのではないだろうか?





島村ジョーという存在など、初めから存在していないのではないか…―――







――― キ ミ ハ  誰 ダ ? ―――









「っ!」

 自分の意思とは関係なく、鏡の中の『自分』が不敵に笑み、そう語りかけてきたような気がして、ジョーは息を呑む。
 食い入るようにもう一人の自分を注視すると、彼もまったく同じ仕草で自分に視線を固定する。

(……僕は…、狂ってしまった、のか?)

 頭の中に時折響く『彼の声』。
 世界を終焉へと誘う悪魔の声が聞こえ始めたときから、自分は狂い、壊れているのだろうか?

 こんな自分が戦えるのだろうか?

(戦う……?)

 誰と?

 何のために?

「………。」

 落ち着くどころか、ますます混迷に堕ちるばかりで、どうしていいのかわからなくってしまったそのとき、扉が開く音が響き、魅入っていた鏡に自分以外の姿が映り込む。

「……っ」

 鏡を通して交錯する、視線。

 だが、それはほんの一瞬。
 鏡の中の女性……フランソワーズは碧い瞳を心配そうに曇らせ、けれども何も言葉を発することなく、目を逸らし、す、と立ち去ってしまった。

「………!」

 彼女を追いかけたいと思うのに、何故か足が動かなかった。
 振り向くことすら、できなかった。

 フラッシュバックする、いくつかの場面(記憶)。
 それは、高校生として生活していた『島村ジョー』が、毎晩のように見ていた悪夢だった。

 揺れる亜麻色の髪。
 華奢な後ろ姿。
 必死に呼び止めても、彼女はいつも自分に気づかず、立ち去ってしまう。

 必死に追いかけて、
 捕まえようと、懸命に手を伸ばす。

 だが、彼女に触れた途端、
 彼女は泡のように弾け消えてしまう―――

 そして、始まる偽りの日常。

(もしも……)

 この瞬間が夢なら、自分が触れたら彼女は消えてしまう。

 彼女が居ない"世界"に、引き戻されてしまう……―――

(……いや、…………彼女は"現実(リアル)"だ…)

 自分の記憶を呼び覚ますために、危険過ぎるカケに及んだ(空から身を躍らせた)フランソワーズ。
 加速装置を使い、彼女を受け止めたその衝撃も、抱きしめ直した柔らかさも温かさも、しっかりと腕に残っている。

 夢では顔も見ることができず、誰なのかわからなかった"彼女"は、触れても壊れることなく、今も確かに自分の傍に居る。

(……夢じゃ、ないんだ)

 3年ごとに記憶をリセットされ続けた自分。
 偽りの時間から救い出してくれたのは、いつも彼女だった。
 3年という時限装置が解除され、一時的に空っぽになってしまった自分を、彼女が…、彼女だけが『島村ジョー』に還してくれた。

 今回も、記憶の封印を解いてくれたのは彼女。
 それなのに、頭の中が靄がかかったように曖昧なのは…、本当の自分を取り戻しきれていないのは、時間的呪縛を無理矢理に断ち切ったからだろう。

(フランソワーズ……)

 彼女の存在をもう一度強く確かめたくて、ジョーは振り向き、彼女が消えた方向へ一歩踏み出す。
 だが、その途端、別の不安が…、漆黒の恐怖が沸き立ち、それ以上進めなくなった。

 最愛の女性であるフランソワーズ。
 何よりも大切で、命を懸けて護りたいと思った、たったひとりの存在。
 自分の気持ちは3年前と……、記憶をリセットされる前と少しも変わっていない。

 けれど、彼女は……?

 3年という歳月は、人間の心を変えてしまうには充分過ぎる。

 そして、例え彼女の心が大きく揺れ動いてしまったとしても、それを責める権利は自分にはない。
 ずっと長い時間、彼女を1人きりにしてしまったのだ。

 考えてみれば、3年前までは彼女はあんな…、大人の色気を強調するかのような服は好みじゃなかったはずだ。
 仕事やミッションで、時にはきっちりしたスーツを着ることはあったし、大人っぽいドレスを着ることもあったが、自分といる(プライベートな)ときはどちらかと言うと、清楚で可愛らしい服を着ていた。
 3年ごとに自分を迎えに来てくれるときも、いつも彼女らしい可憐な姿だった。

 なのに…―――

(…………。)

 彼女の好みを大きく変えた存在がいるのかもしれない。

 彼女と同じ時間を生き、すぐ隣で彼女を支え、癒す存在が現れたのだとしたら……
 自分と顔を合わせるのが気まずくて、立ち去ったのだとしたら……

 ―――……自分は彼女を追うべきじゃない。

 ぐっと握った拳を重い溜息とともに緩め、よろめくように洗面台へと向き直り、出しっ放しにしていた水を止める。
 すると、低く唸るエンジン音に紛れて、遠ざかったはずの足音が再び近づいてくるのが聞こえた。

 物陰から姿を現したのは、離れていったはずのフランソワーズ。

 彼女は先程と同じく、黒のレースがあしらわれた白いスーツ姿。
 違うのはたったひとつ、淡い水色のバスタオルを両手で抱きしめていること。

「……また私だけ、……3つも歳をとってしまった、わね…」

 視線を落としたまま独り言のようにそう言うと、フランソワーズはゆっくりと顔を上げてジョーを見つめ、寂しげに微笑む。

「……フランソ、ワーズ…」

 その微笑みが、彼女が抱いていた深い孤独の証に思えてジョーはたまらなくなり、掠れる声で彼女の名を呼ぶ。
 すると、その声に反応するように、フランソワーズはジョーへと歩み寄り、持っていたバスタオルで、ふわり、と彼の栗色の髪を覆う。

 ごく至近距離で絡み合う視線。

「……ちゃんと拭かないと、風邪、ひいちゃう、わよ」
「っ」

 彼女の華奢な冷たい指先が、微かに頬に触れ、濡れた前髪をそっと払った、その刹那―――
 ジョーは彼女を壁に押し付けると、チェリー色の唇を己の唇で塞ぐ。

「……っっ!」

 大きく見開かれた、何処までも澄んだ碧い瞳。

 バスタオルが、ジョーの身体をなぞるように滑り落ちる。

 唇が触れ合ったのは、僅かな時間。
 ジョーはすぐに彼女の唇を開放し、けれども、吐息が届く距離に留まり、再び視線を絡ませる。

「……ぁ///」

 自分がキスされたのだと悟ったフランソワーズは、ばっと指先で唇を隠し、かあぁぁっと真っ赤に染まる。

 そんな初々しい彼女に……、キスだけで顔を赤く染め、どぎまぎと自分を見つめ返すフランソワーズに……、以前と少しも変わらない彼女に、ジョーはひどく安堵し、そして愛しさを募らせる。

「……ダメだ、な」

 一気に溢れ出た彼女への想いで、己の枷が弾き飛ぶのを自棄に客観的に捉えながら、ジョーは溜息交じりに呟く。

 が、フランソワーズは、その言葉と溜息を『具合が悪い』という意味に解釈し、さぁっと蒼褪める。

「大丈夫? どこか痛むの?」
「え? あ……、少し、ね。さすがはジェロニモ。相変わらず強烈なパンチだったよ」

 本気で自分を心配し、気遣ってくれることが心苦しくも嬉しくて、ジョーは小さく肩を竦め、偽らざる本音を零す。

「メディカルルームで手当てしないと…」
「必要ないよ。こんなの怪我のうちに入らないから。でも……、キミのカウンセリングは必要かも」
「え…?」
「1人でいると…、………気が狂いそうだ」
「もしかして……、記憶が?」
「正直言うと……、混乱してる」
「混乱? 記憶、ちゃんと戻っていないの?」

 彼の口調は冗談めいていて、その表情も微かに笑んだまま、だ。
 だからこそ…、彼が滅多に弱音を吐いたりしないと誰よりも知っているからこそ、フランソワーズは危機感を募らせ、不安を濃くする。

「全部は……思い出せていない、みたいだ。それに、今は……、何もかもが夢のようにしか思えなくて…」
「ジョー…」
「でも、大丈夫。直(じき)に落ち着くだろうし、欠けている部分も思い出せると思う」
「…………ごめんな、さい」

 フランソワーズは溜らず俯き、謝る。

 彼をこんな不安定な状態に追い込んでしまったのは、紛れもなく自分だ。
 無理に記憶を呼び戻せば、彼に何らかの障害が出る可能性が高いとわかっていた。
 わかっていながら、博士の命令に従った。

 緊急事態だったなんてことは言い訳にはならない。
 こんな野蛮な手段を取らずとも、他に…、彼に苦痛を与えずに覚醒させる方法がきっとあっただろう。

「キミが謝ることはないよ」
「でも……っ」
「こんなこと言うのは不謹慎だろうけど……、こうして予定よりも早くキミに逢えたのは、嬉しい、よ」
「ジョー……」
「だから……、ちゃんと顔を見せて」

 優しくて甘い、それでいて切ない彼の頼みに抗えるはずもなく、フランソワーズはゆっくりと視線を上げ、自分を見つめる彼を見返す。

 まだ濡れたままの栗色の髪。
 すべてを虜にしてしまいそうな、赤みがかった茶色の瞳。
 少年っぽさを僅かに残しながらも、大人の男の色気を漂わせた整った顔立ちは、出逢ったときと少しも変わらない。

 でも、自分は?

 完璧なサイボーグであり"変わらない"彼とは違い、生身の割合が高く、ほんの少しではあるが"成長して(変わって)"しまう自分は、彼の目にはどう映っているのだろうか?

「私……、変わった?」
「どう、かな?」
「…………私のことも、ちゃんと思い出せていない?」
「そう、かも…しれない。だから……」

 不安いっぱいなフランソワーズに、ジョーは、ふ、と悪戯げに笑むと、彼女の逃げ場をすべて塞ぎながら耳に唇を寄せ、途切れた言葉の続きを低く囁く。

「思い出させて、よ」
「え……?」
「僕にかけられた呪いを解くには、キスだけじゃ足りないみたいだ」
「〜〜〜〜〜〜っっっ////」

 耳の奥に流し込まれた官能的な声音に、フランソワーズは耳まで赤く染まる。
 恥ずかしくて…、どうしていいのかわからなくて再び俯こうとするが、顎にかかった彼の長い指がそれを許さず、そのまま唇を塞がれる。

 1度、2度、啄むように触れ合った唇は、すぐに深く重なり、彼女の口腔に無遠慮に忍び込んだ彼の舌が好きなように彼女を味わい、絡みつく。

「……っん」

 堪え切れず零れた、彼女の甘い声。
 その声に触発されるかのように、ジョーは彼女の顎を捉えていた指をゆっくりと首筋、胸元へとなぞり下ろし、スーツの襟(レース)を撫で、ボタンを器用にひとつずつ外していく。

「……ん、…っん 待っ ……だ、だめっ」

 いきなりの貪るような激しい口づけに戸惑い、翻弄されながらも、フランソワーズは彼がキス以上の行為を求めていることに気づき、慌てて彼を制止する。

 すると、赤茶色の瞳が拗ねたように…、どこか怯えたように揺れる。

「……僕には、触れられたく、ない?」
「そ、そうじゃ、ない、けど……」
「けど?」
「だって……、こんな…、ところで…」

 フランソワーズは消え入りそうな声でそう告げ、ちらり、と視線を扉と通路へと向ける。

 この輸送機にはジェロニモの他にも、ギルモア財団の職員が数人乗っている。
 そしてここは、ジェロニモがいる1階の格納庫へと降りる階段(扉)の前。細い通路の先には、自分が使うダイブギアのある部屋や操縦席などがあって―――いつ誰が通るかわからない。

「それなら……、今すぐ2人きりになれるところに、ナビゲートしてくれるかな?」

 フランソワーズが何を気にし、嫌がっているのか理解したジョーは、くす、と笑みながら告げる。

 確かに、こんなところで彼女の肌を晒すわけにも、彼女の艶声を響かせるわけにもいかない。
 そんな彼女の姿を、声を、堪能していいのは自分だけだ。

「え…?」
「ずっとお預けを喰らっているんだ。できれば、一秒たりとも待ちたくないんだけど?」
「で、でも……」
「早く連れて行ってくれないと、ココで……襲うよ?」
「っっっ!!??///」

 妖しげな…、それでいて本気な彼の瞳に、フランソワーズは思わず彼の胸を押す。
 すると、彼は呆気ないほど簡単に自分から離れ、堪えきれないようにくすくすと小さく肩を震わせて笑う。

「〜〜〜っ/// ひどいわっ! からかったのねっ」
「いや、からかってなんていないよ」
「嘘っ」
「嘘じゃないよ。言ったのは、どれも本音だし、本気」

 ジョーはそう言いながら、落ちてしまったバスタオルを拾い上げる。

「え?」
「だから……、キミの気持ちが、3年前と変わってしまっているのなら…。今すぐ僕から離れて…、僕の手の届かないところに隠れた方が良い」
「………っ」

 彼の口から静かに零れ落ちた忠告に、フランソワーズは目を瞠る。
 彼の表情は変わらない。微かに微笑んだまま、だ。けれども、その言葉は自虐的で、逸らされたままの瞳は冷たく凍っていた。

 記憶を消され、偽りの時間を延々と繰り返していた彼。
 それは、彼が最高のサイボーグであるが故の、やむを得ない措置だった。
 たった1人でも世界を壊してしまうほどの力を持つ彼に、各国は怯え、そして欲した。彼を守るためにも……やっと訪れた薄氷の上の平和を維持させるためにも、彼の記憶を消し、所在を隠す必要があった。

 ギルモア博士の目論見通り、誰も"009"が高校生として生活しているとは思わず、彼自身、高校生として平凡ながらも穏やかに暮らすことができていた。

 だが、だからこそ…―――、
 3年という呪縛が解けたとき、その時間の分だけ、彼の心は抉られ、傷を受ける。

 彼は自分の運命を受け入れながらも、怯えていた。

 記憶を消され、もう1人の『島村ジョー』として生きることも。
 自分が狙われていることも。

 そして、何より、
 自分が"009"という、世界を崩壊させる最大の爆弾であることを…――

(私の苦しみなんて…、ジョーと比べたら……)

 フランソワーズはきゅっと唇を噛むと、微かに震える彼の手を握り、そっと導く。

「フランソワーズ?」
「…………こっち、よ」

 明らかに戸惑い、大きく見開かれた彼の瞳を、フランソワーズは赤くなりながら、ちら、と見返すと、ちょっと強引に彼の手を引いていく。
 そして、2つめの扉の前で立ち止まると、壁に取り付けられているセンサーに手を翳し、電子ロックを解除した。

「ここ、私の部屋なの。狭いけど……、入って」
「……いいの、かい?」

 不安げに問うジョーに、フランソワーズは、こくん、と頷き、彼を招き入れる。

 女性である自分を気遣って、ギルモア博士が特別に用意してくれた部屋。もちろん、さほど大きくない輸送機なので、シングルベッドと壁に収納できる机があるだけの……、部屋の大半をベッドが占領している、狭くてシンプルなものだ。

「疲れているでしょ? 向こうに着くまでベッドで休んで。あ……、何か温かいものでも用意す………っ」

 彼の手が冷たかったことを心配し、飲み物を取りに行こうとしたフランソワーズの言葉は、最後まで声にはならなかった。
 気づいたときには、さっきと同様に、閉じたドアに押し付けられるようにして唇を奪われていた。

 一気に深く甘く、唇を、舌を舐られる。

「キミで、……温めて、よ」
「ジョー… んっ ……ん」

 離れていた時間を…、寂しさを埋めるような熱い口づけに、フランソワーズの思考はみるみる融け、奪われていく。
 頭の芯がぼうっと霞み、膝が震え、立っていられなくなる。

 そんな彼女を、ジョーはしっかりと抱きしめながら、ボタンが外されたままのジャケットを少しだけ乱暴に脱がし、床に落とす。

「もう……止まらない、よ?」

 ジョーは唇を、彼女の唇から頬、そして耳へと滑らせ、その淵を舌先でなぞりあげながら、囁く。

 ここまで来たら、彼女がどんな嫌がっても止められはしない。
 躯を焦がし、沸き狂うこの熱のすべてを彼女に注ぎ尽くすまでは、もう止まらない。

「……止めなくて…………イイ…」

 彼から齎される甘美な痺れに、ぴく、ぴくん、と身体を震わせながら、フランソワーズはキスで乱され弾む呼吸の合間、懸命に声にする。

 ずっと、彼を見守ることしかできなかった。
 彼に触れることはもちろん、彼の目に触れることすら許されなかった。

 それは、フランソワーズにとっても辛過ぎる時間。

 自分を忘れてしまっている彼を見ているのは、心を抉り裂かれるようだった。

 寂しくて、寂しくて……
 でも、誰にもそんな弱音は言えず……

 それでも耐えてこられたのは、彼の『言葉』があったから。




―――たとえ何度キミのことを忘れようと、僕は必ずキミを思い出すよ―――




 彼はその言葉通り、何度記憶を奪われても、すぐに自分を思い出してくれた。
 今回も、輸送機から飛び降りた自分に気づき、助けてくれた。

 そして、こうして自分を求めて……、愛してくれている。
 それを拒むことなんてできなかった。

 寧ろ……、心の中でもう1人の自分が、早く彼を感じたいと――もっと強く深く彼を感じたいと囁き、沁み出している。

「フランソワーズ……」

 彼女の可愛らしくも艶っぽい承諾に、ジョーは僅かに残っていた理性を崩壊させると、更に深く濃く彼女を翻弄しながら、可憐に咲く花弁を毟り取るようにブラウスを脱がせ、ミニのタイトスカートを滑り落す。

 雪のように白い彼女の肌に残るのは、黒い下着だけ。

「ずいぶん……、大人っぽくなったね」

 すっかり身体の力が抜け落ちてしまったフランソワーズを支えながら、ジョーは唇を今度は彼女の顎、首筋、そして肩口へと順になぞり落とし、1つ紅の花を咲かせ……そして、彼女のセクシーな下着姿を堪能する。

 彼女が下着に黒を選ぶのはめずらしかった。
 もちろん、今までまったくなかったわけではないけれど、服といい、下着といい……以前とはやはり趣味が異なっている。

「……こういうの、は……嫌い?」
「嫌いじゃないけど。以前のキミとはずいぶん違うから、何かあったのかと思って」

 ジョーは下着のレースと肌の境目に唇を這わせつつ、もう片方の胸を掌で包み、柔らかさを堪能するように揉みしだく。

「そ、それは……、ぁっ……、だって……」
「だって、何?」
「…………私は、ちゃんと……時間を重ねて、いる…から……っ、んっ……少しは、大人っぽく……ならない、と……」
「…………。なんだ……、そんな理由、だったんだ…」

 途切れ途切れの彼女の告白を聞き、ジョーは密かにほっとし、独り語ちる。

 彼女は3年前と何も変わっていない。
 優しくて、純粋で、純情で……、だからこそ、小さなことを気にしたり、悩んだりする。

 やっぱり、
 ―――フランソワーズは、フランソワーズのまま、だ。

「そんな、って……」
「無理に大人になる必要なんてない、よ…」
「え? ……ぁ」

 ジョーは悪戯げに笑むと、彼女の細いウエスト(腰)を支えていた左手で陶器のように滑らかな肌を味わいながら撫で上げ、器用にホックを外す。
 そして、緩んだ肩紐を咥え、肩から落とした。

 締めつけられていた彼女の豊満な胸が、ふるり、と揺れ、露わとなる。

「……っ///」

 恥ずかしさのあまり両手で胸を隠そうとするが、それより先にジョーの手が彼女の手首を掴んで、壁(扉)に縫い止めてしまう。
 羞恥な姿にさせられたフランソワーズは、更に赤くなった顔を背ける。

「キミは、充分に大人っぽくて……素敵だよ」

 目の前に晒された白い首筋に噛みつくようにキスをすると、ジョーは真紅の痕跡を刻みながら身体を落とし、豊満な丘をゆっくりと登り――ピンク色の頂を、ぺろりと舐め上げる。

「……やっ ぁっ」

 途端に、ぴく、と大きく反応するフランソワーズ。

 以前と少しも変わらない初心な彼女の反応に満足し、ジョーはその位置から彼女を見上げる。

「これ以上……、キミがそんなに急いで大人になってしまったら……、どんなに加速装置を使っても、追いつけなくなる」
「ジョー……」
「だから…、キミは……、キミのままで居て」

 ジョーは懇願するように囁くと、彼女をベッドへそっと横たえ、シャツを脱ぎ捨ててから、震える華奢な躯を己の躯で覆う。

 吸い付くような極上の肌と温もり。

(……覚えて、いる)

 身体が、心が、彼女を…、彼女のすべてを記憶している。

 何度記憶を消されても、彼女のことは…、彼女のことだけは、絶対に思い出す。

 それは―――確信。

「フランソワーズ…」

 彼の長い前髪が、彼女の頬に触れ、滑る。

「……ジョー」

 碧く潤んだ瞳でフランソワーズは彼を見上げ、その前髪を指先に絡めるように払う。
 そして、髪の隙間から現れた魅惑的な瞳に誘われるように、ゆっくりと彼の首へと腕を回し、抱きしめる。

 やがて、僅かにあった2人の距離(隙間)は完全になくなり、そのまま熱く激しくひとつに融け合っていった。



― Fin ―








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祐浬 2013/5/22