永遠(とわ)に…
†† vol.5 ††



 ――-絶対に、信じられる何か…――

 自分が心から信じられる唯一の存在。
 この魂を懸けて守りたい、ただ1人の女性(ひと)

 フランソワーズ……きっと、君は泣いてる、ね。
 ごめん。

 魔人像から瓦礫と共に放り出された身体。
 その前の激し過ぎる戦いと、爆発に曝された為に、もう身体は殆ど動かなかった。
 ゆっくりと漂う自分の身体を……その手を、誰かが捕らえた。

「002!」

 どうして彼がここに!?

 崩壊し小規模な爆発を繰り返していた魔人像が、大爆発する。
 辺りいっぱいに広がった、オレンジがかった白色の閃光。

「見ろよ、009。宇宙の花火だ。 BGの最後だぜ」

 BGの最後……
 違う。BGは完全に滅んだ訳じゃない。
 奴等はBGの細胞のひとつにしか過ぎなかった。

 戦いは―――終わってはいない。

 眼下に広がるのは吸い込まれそうな蒼い美しい地球(星)。
 君の居る愛しい星。

 地球をこんなにも懐かしいと感じるのは……この星が君の瞳の色をしているからだろうか…。

「002、皆は?」
「無事だ」
「そうか…良かった」

 ヨミ帝国の爆発から、君も皆も逃れられたんだね。

「だがな、その仲間のところへ、戻れそうもねぇ」
「え?」
「エネルギーがもう殆ど無いんだ。ここまで来るのに使っちまって。助けに来たってのに間抜けな話だぜ。悪いな、009」
「002、僕を離せ! 君だけなら助かるかも知れない!!」
「出来るわけねーだろ、そんなこと」
「002」

 どうして……

「仲間なんだからよ」

 仲間?

「駄目だっ」
「死ぬ時は…一緒だ」
「止めるんだ、002!!」
「おっと、もう遅いぜ。大気圏突入だ」
「ジェット……」

 この身を焦がす、灼熱の炎。
 耐え難い痛み。
 錯覚ではなく、本当に己の躯が燃えていた。
 ……焼かれていた。

 落ちていく。
 ……君の居る星へ。

 混濁する意識の片隅で、ふとそんなことを思った。

 死を覚悟した筈だった。
 もう会えないと思った。

「ジョー…君は何処に落ちたい?」

 何処へ?
 決まっている。自分の還る場所はひとつしかない。

「フラン…ソ…ワーズ……」





 ぼんやりと浮かんだのは、幾重にも重なった白色がかったパステルカラーの光の輪。

 ジョーは何度か瞬きを繰り返し、眼のピントを合わせる。
 徐々に鮮明に浮かび上がってくる景色。

「こ……」

 ここは?、と声に出そうとしたのに、掠れて殆ど音にはならなかった。
 痛いほどの喉の乾きと、異様な身体の重みと不快感。

(……治療室?)

 見慣れた天井だった。
 ジョーは自分が研究所の地下にある治療室(メディカルルーム)に居る事を知る。

 鉛のように重い身体を何とかベッドから引き剥がそうと試みる。が、身体に思うような力が入らず、僅かに身動ぎしたに過ぎなかった。

「?」

 ジョーはそこで初めて、自分の手が何かに捕らわれている事に気付く。
 温かく手を包む、柔らかな何か…

 ジョーはゆっくりと視線を巡らし、その姿を捉えると、目を細める。

(フランソワーズ…)

 フランソワーズはジョーの手を両手で握り締め、その手の上に頬を重ねて、すやすやと穏やかな寝息をたてていた。

(僕は……還って来たんだ…)

 ヨミ帝国で握り締めた彼女の手の温もりが、今も現実に手に有ることで、ジョーはやっと自分が還って来られたのだと悟る。
 ……彼女の元に。

 亜麻色の髪に隠されてしまっていてる彼女の顔。
 その顔が見たくて、ジョーは空いている右手を持ち上げようとする。
 ずきり、と鈍い痛みが身体を貫く。
 ジョーは、くっと唇を噛んでその痛みをやり過ごすと、震える手を彼女の頭にそっと乗せ、指に髪を絡めて、解れた髪をその美しい顔から払い除ける。
 
 閉ざされた瞼、緩やかにカールした長い睫毛、ピンク色の唇。

 名残惜しくて暫く彼女の髪を撫でていると、フランソワーズの指が、ぴくんと微かに跳ね、そろそろと瞼が開かれていく。
 ジョーは静かに彼女を見守り、自分と視線が合うのを待つ。

「え? ……あ」

 フランソワーズは暫く呆けたようにジョーを見つめ、彼が自分を見つめていると……茶色の瞳に自分の姿が映っている事を知ると、慌てて上半身をベッドから引き起こす。

 言葉にならなかった。

 嬉しくて……。
 愛しくて……。

 言葉に替わらなかった想いが、涙となった。

 溢れ落ちる彼女の涙を、ジョーはそっと指先で拭う。
 フランソワーズは切なそうに目を細めると、その彼の手をぎゅっと握り締める。

「ジョー……」
「フラ……ン…」

 フランソワーズ、と名前を呼びたいのに、やはり上手く声に替わらなかった。

 フランソワーズは一瞬不安げに表情(かお)を曇らせたものの、直ぐに事態を把握し、サイドテーブルに用意してあった水差しから、グラスへと水を注ぎ、口に含むと、ゆっくりと身体を彼へと屈ませる。

 そっと柔らかく触れ合う唇と唇。

 フランソワーズは口に含んだ水を、彼の唇の隙間から少しずつ流し込む。
 ジョーの喉が、こくん、と鳴り、自分の与えた水を飲み干した事を確認すると、フランソワーズは唇を遠ざけ、恥ずかしそうに微笑んだ。

「ありがとう。楽になった」

 潤った喉は、拍子抜けするほど容易く「声」を発する。
 フランソワーズは、小さく首を横に振った。
 それから真っ直ぐにジョーを見つめると、小さく…けれどもはっきりと告げる。

「ジョー……お帰りなさい」

 フランソワーズの言葉にジョーは穏やかな…切なげな笑みを浮かべる。
 それは…
 あの時と……魔人像へと送り込まれる直前と同じ笑顔。

「ただいま。フランソワーズ」


 

Back / Next

Novel MENU

 



祐浬 2002/10/4