永遠(とわ)に…
†† vol.4 ††



 ――神よ。生まれて初めて貴方に祈ります――

 あの祈りが本当に神に届いたのだろうか。

 延々と続く宇宙空間で、魔人像から弾き出された009を見つけられたのは、奇跡、だった。
 夢中でジョーの手を掴み、魔人像の第1の爆発に巻き込まれ傷付き動けない彼を、大爆発から守る為に胸に庇った。

 真っ暗な宇宙空間に、オレンジがかった白色の閃光が走る。
 魔人像の……BGの終演。

「見ろよ、009。宇宙の花火だ。BGの最後だぜ」

 悪の権化のBGが作り出した魔人像。
 醜く憎むべきのその存在の爆発なのに、何故か綺麗だと感じた。

「002、皆は?」

 皆は?、じゃ、ねーだろ…

 彼が一番心配しているのは、フランソワーズのこと。

「無事だ」

 命の危険はもう無い。
 だが……彼女はこの今も泣き続けているだろう。

「そうか…良かった」
「だがな、その仲間(彼女)のところへ、戻れそうもねぇ」
「え?」
「エネルギーがもう殆ど無いんだ。ここまで来るのに使っちまって。助けに来たってのに間抜けな話だぜ。悪いな、009」

 悪い、な。フランソワーズ……。

「002、僕を離せ! 君だけなら助かるかも知れない!!」
「出来るわけねーだろ、そんなこと」

 俺1人が助かったら……アイツに合わす顔がねぇだろ。
 それに…

「002」
「仲間なんだからよ」

 お前のコトも放っておけやしねーんだよ。
 危なっかしくて、見てらんねーからな。

「駄目だっ」
「死ぬ時は……一緒だ」
「止めるんだ、002!!」
「おっと、もう遅いぜ。大気圏突入だ」

 蒼く美しい地球(星)。
 そういや……アイツの瞳もこんな色だったな。

「ジェット…」
「ジョー…君は何処に落ちたい?」

 せめて……アイツの…
 フランソワーズの側へと、コイツを……。

「フラン…ソ…ワーズ……」
「!?」

 ――神様!!――





「ありがとう、ジェット…」
「よせよ。照れるじゃねーか」

 002は微かに頬を染めると、バツが悪そうに、フランソワーズから顔を背ける。

「俺はお前に感謝されるよーなコトはしてねーよ。結局は燃料切れで、アイツと一緒に落ちただけだ」
「ううん。貴方がジョーを、私のところへ連れ帰ってくれたのよ。だから……ありがとう」

 フランソワーズは微かに笑みながら、再び感謝の言葉を告げる。

 その何処と無く影のある哀しげな微笑を横目で捉え、002は表情を改める。

「アイツ、未だ意識が戻らねーんだってな」
「ええ。でも、001がもう直、目覚めるだろうって…」
「ったく、何ぐずぐずしてやがんだよっ」

 自分の事をすっかり棚に上げて容赦なくジョーを罵倒する002に、フランソワーズはくすっと笑う。

「本当ね。いつもお寝坊さんだけど…。こんな時まで、寝坊すること無いのに、ね」
「全くだぜ……って、そりゃ惚気てんのか?」
「え?? あ…違うわよ!」

 フランソワーズは、かあぁっと頬を真っ赤に染め、慌てて両手で頬を覆い隠す。

「別に惚気でもかまわねーよ。もう、隠すことねーだろ。堂々としてろ」

 002はにっと笑って、彼女を仰ぎ見る。

「同じ事を、アルベルトにも言われたわ」
「004に?」
「ええ」
「そうか……」

 口篭る。
 普段通り平気な顔をしてはいるが、自分達の中で一番傷付いているのは004だ。
 自分が受けた肉体的な傷とは違い、彼の心の傷が癒えるのには、相当長い時間が必要であろう。
 誰かに弱音を吐いたりすること無く、全てを己の胸にしまい込んでしまう004に、自分達がしてやれる事は、前と変わらずに彼と接することだけ、だ。

「早く、元気になってね。ジェット」

 フランソワーズが、ぽつりと告げる。

「おうっ こんな怪我さっさと治しちまうから、そうしたらデートしようぜ」
「デート?」

 002の唐突な誘いに、フランソワーズは目を丸くする。

「成層圏から見た地球。すっげぇ綺麗だったんだ。お前にも見せてやるよ」
「もしかして……飛んで、行くの?」
「身ひとつで飛ぶっていうのも悪くないぜ」

 ジェットの余裕の笑顔は崩れることが無い。
 つられてフランソワーズも微かに笑った。

「そうね……でも、私、落ちるのは嫌よ」
「あんなヘマは二度としねーよ。あ、そうだ…お前に良い話してやるよ」
「良い話?」

 フランソワーズはきょとんと彼を見返す。

「ああ。地球へと落ちる時に、俺、アイツに訊いたんだ」
「何て?」
「ジョー、君は何処に落ちたい?、ってね」

 大気圏に突入し、その熱によって全てが燃え始めたあの時に交わした会話。

「彼は……ジョーは何て答えたの?」
「お前の名前だったぜ」
「!?」

 フランソワーズは、はっと息を呑み、両手で口元を押さえる。

 あの時に聴いた自分の名を呼ぶ彼の声。
 恐らくそれが、002の問いに対する彼の「答え」だったのだろう。

(彼は……約束を忘れていた訳じゃない…)

 ――僕はここに居る。これからも、ずっと…――

 そう誓ってくれたジョー。
 けれど彼は、自分を残して…何も告げずに1人で魔人像へ行ってしまった。
 だから……
 あの言葉は嘘だったのかと思った。
 自分の本当の想いが彼には通じていなかったのかも、と…。

 だが違った。
 彼は覚えていてくれていた。
 自分との約束を果たそうしてくれていた。

 自分の還る場所が「彼」であるように……
 彼もまた同じように想ってくれている。

 大粒の涙がマリンブルーの瞳から、ぽろり、と落ちた。

「……泣くな、よ」

 フランソワーズの涙は、水面を漂っていたあの時の涙とは意味が違う。
 この涙は……嬉しいから、だ。
 それでも、やっぱり彼女の涙は見たくはなかった。

(お前には、笑ってて欲しいんだよ……)

 フランソワーズは「うん」と頷くと、指先で涙を拭い、恥ずかしそうに微笑む。

「アイツが目が覚めたら……心配させた分だけ、しっかり償わせろ、よ」
「償い?」
「ああ。たっぷり可愛がって貰え」
「っ!?/// もうっ、嫌なジェットね」

 頬を朱に染め、唇を尖らせるフランソワーズに、002は優しく言葉を繋ぐ。

「お前がアイツの為に流した涙の分だけ、お前にはアイツに幸せにして貰う権利がある」

(それが出来ねーようだったら……俺がコイツを奪っちまうからな)


 

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祐浬 2002/10/4