Seduire

― Story by Yuuri ―





 微かな振動と音に促され、水面近くを漂っていた意識が、ふわり、と浮かぶ。

「…………ん…」

 色濃く纏わりつく甘い微睡みから何とか逃れ、薄く瞼を開いた。

 瞳にぼんやりと映ったのは、何の形も成さないふわふわした優しい光のプリズム。

(…………夢…?)

 あまりに幻想的なその景色に、まだ夢の中なのではと思いつつ、一度目を閉じ、再び瞼を押し開く。
 すると、今度は朧気ながら現実(リアル)な色彩を描き出した。

 明るいブラウンが僅かに揺れ…、
 魅惑的な赤茶色が、幾度か瞬く。

「おはよう…」

 笑みを含んだ、低くて甘い声。

「……………………?」
「……起こしちゃったかい?」
「…………。……え?」

 幻聴ではなく、直ぐ傍から確かに聞こえる優しくも楽しそうな吐息。
 フランソワーズは、視界いっぱいに映るそれが何なのか分からないまま、不思議そうに見つめ―――何度か瞬きを繰り返す。

「おはよう……」

「〜〜〜〜〜〜〜〜っっ////」

 やっとクリアになった瞳に映ったのは、ごく至近距離で自分を見つめる、愛する男性(ひと)の…ジョーの顔だった。

「おはよ」

 状況が把握できず、驚き固まっているフランソワーズに、ジョーはうつ伏せの姿勢のまま、ふ、と悪戯げに笑み、ワザともう一度朝の挨拶を告げると、寝癖のついた髪を無造作に掻き上げる。

「え? ……ジョー…?」

 隣に…、躯が触れ合うほど近くに彼が居ることを…、しかも、何も身に纏っておらず、細いながらも程好く筋肉がついている均整の取れた男らしい肉体(身体)が目の前に在ることを認識し、かあぁぁっっと一気に体温が上昇する。
 恥ずかしくて顔を背けたいのに、瞳はまるで魔法にかかってしまったかのように、彼から逸らすことを許さなかった。
 整えられた彼の長い指の隙間から、さらさらと髪が零れ、いつもとは違う少し乱れた髪型となる、その艶っぽい仕草に魅せられ、戸惑い、どきどきしながらも、フランソワーズは少し掠れた声で彼の名を呼んだ。

「どうしたの? そんなに驚いて」
「だ、だって……、どう…して?」

 混乱するばかりで一向に答えに辿りつかず、フランソワーズは、おずおずと問う。
 途端に、ジョーの瞳が心配そうに揺らめいた。

「どうしてって…、昨夜から、ずっと一緒にいるけど? 覚えてないの?」
「え?」
「まだ寝惚けてる? それとも」

 ジョーはそこで言葉を切ると、彼女の可愛らしい耳朶に唇を寄せ、触れるか触れないかの位置で囁く。

「記憶が混乱しちゃうぐらい、気持ちよかった?」
「っっっっ!!//////」

 直接耳に流し込まれる蕩けるような低い声に、益々顔が熱くなる。
 と、同時に、その言葉に誘発されたかのように、途切れる前の記憶が鮮やかに脳裏に蘇った。

 今日は、1月24日。
 ―――自分の始まりの日。

 お正月が過ぎると、ジョーも自分も仕事で忙しく、擦れ違いの日々を過ごしていた。
 だが、ジョーは、「1月24日は……、キミの誕生日には必ず帰るよ」と約束してくれ、その約束通り、昨夜帰ってきてくれた。
 そして、1月24日へ日付が変わると同時に、彼に唇を奪われた。それはそのまま長く激しい口づけに堕とされ、気がついたら、ベッドに沈んでいた。

 離れていた時間を埋めるような…、逢えない寂しさを拭い去るような、深く濃いキスの合間に、「お誕生日おめでとう」と囁かれたのは覚えている。

 こんな身体となってしまってからは…、時間の秩序からはみ出し、老いることすら許されなくなってしまってからは…、誕生日を純粋に喜ぶことは出来なくなってしまった。
 けれど、生まれたことを祝福してくれる言葉は、やっぱり嬉しかった。
 特に、ジョーからの言葉は…、毎年告げられる、ぶっきらぼうだけど、心からの祝福は、とても…、とても嬉しかった。

 だけど、その嬉しさの余韻に浸る余裕は与えられなくて、「ありがとう」も言えないまま、彼の熱さに狂わされ、溶かされていった。

 昨夜の彼はいつもより激しくて、そして、意地悪で……
 優しくも絶対的な支配力で、翻弄し、羞恥に染め――甘く、容赦なく、何度も何度も空へと導かれ……
 ふたつの温度と湿度が、幾度もひとつになった。

 だから、昨夜の記憶は、殆どが曖昧で、不確かだった。
 いつ眠りに堕ちてしまったのかも、覚えていない。

「……思い出してくれたみたいだね」

 ジョーは元の位置に戻ると、可哀想なくらい真っ赤に染まるフランソワーズを見、くすくすと笑う。

 そんな彼を、フランソワーズは拗ねた目で見上げた。

「……ジョーが……悪いんじゃない。……あんなに…………するから…///」
「そう? 僕は全然足りないけど?」
「っっ/////////」

 しれっと告げられた彼の言葉に、フランソワーズは大きな碧い瞳を益々大きく見開き、ものの見事に羞恥に染まる。
 そんなフランソワーズを見てジョーは、ぷ、と吹き出すと、肩を震わせて笑った。

「も、もうっっ からかわないでっ」
「からかってなんていないよ」
「嘘。ホントは……もう厭きたんじゃないの?」

 彼に翻弄されてばかりいるのが悔しくて、フランソワーズはワザと思ってもいない言葉を発し、頬を膨らませる。

「それ、本気で言ってる?」

 赤茶色の瞳が、すっと細められ、熱を帯びる。

「えっ ……、っん」

 彼の"本気"の瞳に、フランソワーズは自分が墓穴を掘ってしまったことに…、火に油を注いでしまったことに気付く。
 慌てて『違う』と説明しようとしたが、言葉は彼の唇によって遮られ、封じられてしまった。

 少しずつ角度を変えながら、啄ばまれる優しいキス。
 肌と肌が重なり、異なる温度が混ざり合う。

「……ん、…ふっ」

 強張っていたフランソワーズの躯が、キスの魔力で融かされて甘く火照り始めると、ジョーは深い口づけに堕とすことなく、彼女の濡れた唇を解放し、吐息のかかる距離で彼女の瞳が開かれるのを待つ。

「信じられないのなら、実践してみせようか?」
「っっ!?」

 悪戯っぽい彼の瞳に射抜かれ、フランソワーズは乱された息を整えながら、慌てて、ふるふると首を横に振る。

「僕に触れられるのは、嫌?」
「ち、違っ」

 途端に捨てられた仔犬のような寂しげな瞳になるジョーに、フランソワーズは、再度首を横に振った。

「そ、そうじゃ、なくて……、…………これ以上……されたら…………、動けなく、なっちゃう…から……」

 今日は午後から、彼と出掛ける予定だった。
 そして、それを言い出したのは、他ならぬ彼、だった。
 「忙しくて誕生日プレゼントを用意できなかったから、午後から一緒にプレゼントを選びに行こう」、と、昨夜彼が提案したのだ。
 どうしてもプレゼントが欲しい訳じゃないが、彼の気持ちは嬉しいし、何より彼とのデートは久し振りで、楽しみだった。

 でも、これ以上彼に翻弄されたら、歩くどころか、ベッドから抜け出すことすら出来なくなってしまう。

 フランソワーズはそのことを説明しようと、消え入りそうな声で懸命に言葉を紡ぐ。
 と、ジョーは、彼女を組み敷いたまま、ふ、と微笑む。

「出掛けるまで、まだ時間はあるけど?」
「え? あ……、今、何時、なの…?」
「朝の7時過ぎ、だよ」
「7時……??」

 ジョーの答えに、フランソワーズは小首を傾げる。
 午前中の予定は、特になかった筈だった。他の仲間たちもギルモア博士も外出中だから、朝寝坊を冷やかす者も居ないし、早起きする必要もない。
 何より、彼自身が、昨夜、「明日の朝は、久し振りにキミと朝寝坊できる♪」と楽しげに言っていたのに、何故、普段は寝起きの悪い彼が、こんなに早起きしているのだろうか?

「…………ずっと、起きていたの?」
「まさか。少し前に目が覚めたんだ」
「良く眠れなかったの?」

 自分に触れている彼の体温が普段よりも低いことに、フランソワーズはその時になって気付く。
 それは、彼が少し前までベッドから離れていた証拠だった。そして、彼の髪が僅かに湿っているから、行き先はバスルームだと直ぐに分かった。

「いや、そうじゃなくて……」

 心配そうなフランソワーズに、ジョーはそう言葉を濁すと、彼女の温もりから離れ、仰向けに寝転んで、顔にかかる前髪を掻き上げる。

「静か過ぎて、目が覚めちゃったんだ」
「静か過ぎて?」
「うん。で、一度目が覚めちゃったら、何だか……、眠るのがもったいなくなっちゃって、さ」

 フランソワーズの訝しげな視線に、ジョーは、バツが悪そうに首を竦めてみせる。

「もったいない?」
「うん。……キミが、あんまり可愛い顔シテ寝てるから」
「―――っ/// もうっ また、からかってっ」
「僕は至って本気だよ。本当に可愛かったんだ。あ、もちろん、今も……、その真っ赤に染まった拗ねた顔も可愛いけどね」
「〜〜〜〜〜〜〜☆#◇◎▼※%★/////」

 ジョーの唇からさらりと告げられた言葉に、完全に返す言葉を失くしたフランソワーズは、ふいっと彼に背を向け、毛布の中に赤く染まった顔を埋め隠す。

 普段は言葉数が少なくて、その数少ない言葉すらもぶっきらぼうで、滅多に本音など告げないのに……、
 『愛してる』や、『好き』という言葉さえ、滅多には言ってくれないのに……、
 こういう時だけ饒舌に、照れる事無く、しかも楽しそうに"言葉"にするなんて……

(ホントにずるいんだから…っ)

 心の中で目一杯拗ねてみる。
 が、悔しさはほんの少しで、それも直ぐに消えてしまった。

 誰も知らない、本当の彼。
 普段は強固な鎧に覆われ、決して覗かせない彼の本質を、自分だけが知っていることが…、自分だけがそんな彼を見つめることを許されているのが、とても嬉しかった。

「眠らなかった理由は……、それだけじゃないんだ」
「え? ……あ///」

 急に真剣味を帯びた彼の声音に驚いて顔を上げたその瞬間、ふわり、と逞しい腕に背中から抱き締められる。

 何も纏っていない躯に…、背中に、ヒップに、脚に、そして髪に直接感じる、彼の肌の感触と温もり。
 自分に絡みつく腕の強さが、昨夜の情事を蘇らせ、心臓が痛いほど早鐘を打つ。

「……ちょっと起きられる?」

 耳まで赤く染まりながら、全身を硬直させる初々しいフランソワーズの髪に、軽く唇を落とすと、ジョーは、そうっと彼女を抱き起こす。

 本音を言えば、このまま彼女の温もりに溺れたい。だが、それは……もう少し後でイイ。
 今優先すべきコトは、別にあった。

「……? ジョー?」

 彼に抱き起こされるがまま上半身を起こし、毛布が躯から滑り落ちないようにぎゅっと胸元を押さえながら、肩を抱き支えてくれる彼を見つめる。
 躯は昨夜の彼の残り香と疲労に支配されたままで、思ったよりもだるく、彼に支えてもらわなければ、崩れてしまいそうだった。

 ジョーは、ひょいと彼女を膝の上に乗せると、露わになっている彼女の華奢な背中を…、その躯が冷えないよう胸に抱き寄せ、拘束しながら、ベッドの横にある出窓のカーテンへと指を伸ばし、僅かに隙間を作る。

「外、見てごらん」
「外? …………あっ!」

 言われた通りに窓へと…、寒さに煙るガラスの先へと視線を巡らせると、フランソワーズは、はっと息を呑み、大きな目を益々大きく輝かせる。

 窓の外に広がっていたのは、白く彩られた景色。
 しかも、純白の結晶が絶え間なくはらはらと舞い降り、ガラスを霞め、窓枠の僅かな隙間にも積もり続けている。

「雪?」

 大地を埋め尽くす、純白。庭に置かれてあったベンチにも、辺りの木々にも、まるで綿帽子を被ったように、雪が積もっている。
 遠く目を馳せると、白いベールに阻まれ霞んでしまっていた。

「……綺麗」

 全てが白に抱かれ沈んでいる、そのあまりに美しく幻想的な景色に、フランソワーズはうっとりと呟く。

「外がずいぶんと静かだから、もしかして、と思ったんだ。まさか、こんなに積もっているとは思わなかったけど」

 ジョーはそう言って苦笑し、フランソワーズの柔らかな亜麻色の髪を梳く。

「こんなに雪が積もるのなんて、何年ぶりかしら…」

 研究所の在るこの地は、冬でも比較的暖かいが、年に何回かは雪が降り、時には積もることがある。
 だが、こんなにも…、全てが呑み込まれそうなほどの積雪は滅多になかった。

「何だか……、ちょっと、悔しい、かな…」
「悔しい?」

 ぽつりと呟いたジョーの低い声に、フランソワーズは彼へと振り向こうとする。けれども、後ろからきつく抱き締めるジョーの腕が、それを許してくれなかった。

「ジョー?」

 どうしたのだろう、と視線を彷徨わせると、ふとガラスに映り込む自分と彼の姿を捉え、瞳を止める。

 ガラス越しに見つめられていることに直ぐに気付いたジョーは、困ったような…、それでいて嬉しそうな曖昧な笑顔を浮かべ、少しだけガラスの中の彼女と視線を合わせると、また白い世界へと目を向けた。

「どんなプレゼントも、この雪には敵わないだろうし…」
「えっ?」
「……ホワイト・バースディ、だね」
「あ……///」

 ジョーの言わんとしていることがやっと理解でき、切なげに目を細めたフランソワーズが、彼の視線を追って窓の外を眺める。

 自分が生まれてきた日が、珍しく雪景色となったのは…――、
 天国に居る、自分を愛してくれた者たちからの贈り物なのだろうか?
 雪が好きなことを知っている…、雪が秘める意味を教えてくれた彼らの、想い、だろうか?

「ジョー……、もしかして……、怖い、の…?」

 自分を抱き締めたまま離そうとしないジョーに、フランソワーズは心配そうに問う。

 以前、彼は、雪は嫌いだと言った。
 雪は大切なものを奪うから、と……

 あの日から…、舞い降る雪の中で揺るがぬ愛を誓い合ったあの日以降、露骨に雪を怖がることはなくなったが、やはり、雪が降ると、彼は不安そうに瞳を翳らせる。
 いつも以上に自分を求め、強く、自分がココに居ることを…、己の腕の中に在ることを確かめようとする。

「少し、ね。でも……、もう、かなり平気」

 フランソワーズの深い愛情に、ジョーは偽ることなく正直に答える。

「本当に?」
「ホントに。こうして、キミに触れていれば怖くないよ」
「ジョー……」
「雪って……キミに似てるよね」

 不安と心配を拭い去れない彼女に…、自分の偽らざる気持ちに聡い彼女に、ジョーは苦く笑み、観念すると、激しく降り続く白い結晶を眺めながら、消え入りそうな声で囁く。

「似てる?」
「うん」

 再度振り向こうとする彼女の肩に軽く唇を落として、それを阻み、ジョーは彼女を抱く腕に力を込め、縋るようにその温もりを感じる。

「っ/// 私と……雪が?」

 肩口を擽る甘い感触に、ぴくっと微かに躯を震わせながら、フランソワーズはどぎまぎと尋ねる。

「白くて、綺麗で、……儚くて。…………触れたら、融けて消えてしまいそうだ」
「ジョー…」

 彼の切なく寂しげな呟きに胸が締めつけられ、フランソワーズは、そっと自分を抱き締める彼の腕に触れる。

「私は……消えたりしないわ」
「………。」
「だって、……ずっと、……こんなに強く抱き締められているのに、ここに、こうして居るでしょう?」
「フランソワーズ……」

 彼女の慈愛に満ちた言葉に、僅かに残っていた枷が外れるのを、ジョーはやけに客観的に自覚する。
 そして、愛しさに流れるがままに、指先で彼女の髪を払い、唇を肩から、露わになった白く滑らかな項へと滑らせた。

「…………ぁっ」

 彼が触れたところから微かな電気が走り、ぞくん、と甘く痺れる。

「ゃ、あ……、ジョー……、だめっ」

 耳の淵を舌でなぞられ、それと同時に彼の手が毛布の中に滑り込んで来て、彼が本気だという事を…、このまま、自分を翻弄するつもりだと気付き、フランソワーズは身を捩りながら、慌てて制する。
 だが、ジョーはますます彼女を強く拘束し、柔らかな胸の膨らみを、そっと包んだ。

「っぁ、ジョー…っ 待っ ……午後から、出掛ける……ん、じゃ……っ」
「だから、まだ時間はある、よ」
「で、でも……っ これ、以上は……私……っ」
「予定、変更しようか。どうせこの雪じゃ、出掛けるのは無理だろうし」
「えっ? ……ぁっ」
「プレゼントは明日、雪が融けたら買いに行こう」
「ゃっ……、あ…っ あし、た…?」
「誕生日当日じゃなきゃ、ダメ、かい?」
「そ、そんな、こと……、……っん」
「じゃ、お詫びに、今日は、何でもキミの言うコト聞いてあげる、よ」

 やわやわと彼女の2つの膨らみを掌で好きなカタチへと変えながら、ジョーは悪戯げに囁いて、雪のように真っ白な彼女の背中へ、ちゅっと音を立てて吸い付き、紅の華を咲かせる。

「……ぁ」

 ぴく、と彼女の躯が大きく震え、零れる吐息が熱を帯びる。

「そういや、昨夜は、ココに付けるの忘れてたよ」
「……えっ? ……ぁ っや ……っあ」

 ジョーは次々と白い雪原に足跡を刻みながら、「久し振りで、僕も昨夜は余裕がなかったから…」と楽しそうに言い訳する。

「ジョー…っ だめっ ぁ……、いや……っ」
「僕に触れられるのが、そんなに嫌?」

 ぴたり、と手を止め、傷付いたような沈んだ声音で問う彼に、フランソワーズは、思わず首を横に振る。

「ち、違……、そうじゃ、ない……けど」
「なら、今日はたっぷりサービスしてあげるよ」
「えっ? あ、……ぁぁっ」

 再び…、今までよりも大胆に蠢き始める彼の指と舌に、フランソワーズは甘い悲鳴をあげる。

 もう逃れられない。
 このまま、彼の熱に何もかも融かされてしまう。

 それは、恥ずかしくて恥ずかしくて……、
 少し、怖くて……

 でも……

 ―――幸せで。

 彼から齎される…、彼だけが与えてくれる圧倒的な快楽に溺れながら、フランソワーズは愛する者の存在を確かめようと、自分の躯に絡みつく彼の腕に縋り、その名を呼ぶ。

「ジョー…っ あ、……もう、…私っ」
「フランソワーズ、折角の誕生日なんだから、我侭、言って良いんだよ?」

 幸せ色に霞む意識に甘い誘惑が響き、内側からも侵食され、狂わされる。

「我侭? あ、あ……、……っん」
「ほら、フランソワーズ、言ってごらん。キミが今一番欲しいものは、何?」
「っゃ、あっ…… それ、は……」



†† ……何が欲しい? ††





          この想いが凍えぬよう…

            白き魔物に奪われぬよう…

                             ……雪が降り止むまで

ぬくもりを融け合わせて… ―――





― Fin ―









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祐浬 2011/1/24