Refleter
†† vol.4 ††





「どうして……」

 独りでに零れ落ちた呟き。
 だが、それ以上言葉にはならなかった。

「…………。」

 ジョーは無言のまま、震えの止まらない彼女の肩を支え、辺りを注意深く見回してから、もう一度足元に転がるそれを見つめる。

 草むらに残る焼け爛れた跡。
 近くの木々の幹も一部が焦げ、炭化していた。
 散乱しているのは、機械の塊。
 けれど、それが何であったのかは容易く察する事が出来た。

 それは―――自分達と同じ『人間』の形をしたもの。

 しかも……
 栗色の髪の青年と、亜麻色の髪の女性。

 青年の方が損傷が激しく、顔の半分はすっかり『機械』となってしまっているものの、それが誰であるのか特定するには充分だった。

「…………僕、だ」

 自分と瓜二つの――男性。

 そしてもう1人は……青年が庇うように覆いかぶさっている女性は、フランソワーズと全く同じ顔、だった。

「…………くそっ」

 やっぱり、と思った。
 想像していた通りの…その中でも最も最悪の光景が、目の前にあった。

 ジョーはフランソワーズを一度強く抱き締めてから、彼女の元を離れ、ぴくりとも動かない2人の傍らにしゃがみ込む。

 身体の大半が消し飛んでいる青年と、胸から腹部に酷過ぎる損傷を追った女性。
 命が留まっているとは思えなかったが、それでもジョーは損傷の少ない彼女の首筋に、そっと触れる。

 長い時間雨に晒されていたのだろうそれは、もう……冷たかった。

「どうして……『私達』がこんなことに……」
「違う。『僕達』、じゃないよ」

 フランソワーズの怒りを秘めた悲痛な言葉を、ジョーは強く…自分に言い聞かせるように否定する。

 ここに横たわっているのは……自分じゃない。
 そして、彼女でもない。

 けれど……
 そう分かっていても、彼女と全く同じ顔の女性が無残な姿となっているのを目の当たりにすると、心が抉られたように苦しくなる。

「それじゃ、この2人は……BGが作ったロボットなの?」
「いや……違う」

 ジョーは砕かれたもう1人の自分の身体を、目を細めて慎重に観察する。

 身体の大半は機械、だ。
 だが、その一部は確かに、『人間』のもの。

 彼は……自分と同じサイボーグ。

「彼等は……ロボットでは無いし、僕達のクローンでもない。全くの別人だよ」
「こんなに似ているのに?」

 フランソワーズは、ちらっと視界の端に彼等を捉える。
 だが、やはり直視は出来ず、慌てて視線を逸らした。

 戦うと誓った自分は、現実から目を背けることは許されない。
 けれど、あまりに惨い自分と……最愛の男性と同じ顔の彼の姿を前にし、決意は脆くも崩れそうだった。

 彼が、もし……本物のジョーだったら…―――。

 そう考えると、堪らなく怖かった。
 確認なんてせずに、この場から、今『生きている彼』と共に逃げ出したかった。
 そうすれば……例え『彼』が偽者だとしても、本物だと信じ続けることが出来る。
 自分が愛している、たった1人の男性(ひと)を失わずに済む。

「似ているんじゃなくて、似せているんだ」
「似せて?」
「フランソワーズ、辛いだろうけど……ちゃんと見てごらん。彼は僕じゃない」

 ジョーの優しくも強い…揺るぎない確信を抱いた言葉に背中を押され、フランソワーズは恐る恐る、逸らしていた視線を彼等へと向ける。

「彼も彼女も、僕達とは身体つきが少し違うだろ?」
「あ……」

 彼の言う通りだった。
 『自分』のことは、もちろん自分が一番良く分かっている。
 彼女の方が……自分よりも少しだけ胸が大きい。それに、彼女の脚は……すらりとした程よく筋肉の付いた綺麗な脚だけれど、バレリーナのものではない。

 彼も同様だった。
 彼の手は、ジョー(本物)とは違う。

 いつも自分に触れてくれる……大好きな手じゃない。

「どういうこと?」
「整形、だと思う」
「整形?」
「ああ。彼と彼女は、僕達とは全く別の……おそらくは、同じ歳ぐらいの…、身体的特徴が似ている人なんだよ。彼等を、僕達そっくりに整形して……改造したんだ」
「もしかして……私達を殺す為、に?」

 奴等の卑怯で卑劣なヤリ口を、今まで散々痛いほど味わってきた。
 自分達と同じ顔を持つ者を作り出した目的は、おそらく……自分達の元に極秘裏に潜り込ませ、一網打尽にする策略、だろう。

「だろうね。……そんな予感はしていたんだ。あの基地で作っているのは、『君』じゃないかって…」
「私? でも、貴方だって……」
「僕は……『彼』は、あくまで『彼女』の試験対象として作られた、んだと思うよ。彼女は君そっくりに改造されているけど、彼の方は……僕とはかなり違うから」

 彼女が自分達の元へ送り込まれて来ていたら、ギルモア博士でも偽者だとは直ぐには気付かなかっただろう。
 それと比べて彼は……透視能力を持つフランソワーズなら、直ぐに偽者だと見抜いてしまった筈だ。

 2人の明らかな差。
 その差が何を指し示すのかは、単純明快だ。

 奴等の目的は……あの地下基地で作ろうしていたのは、フランソワーズの偽者。
 彼は、彼女が本当に『フランソワーズ』として使えるかどうかをテストする為だけに作られた。

「試験対象としてって…まさか彼は……」
「うん。彼女に殺される為だけに、僕そっくりに作られたんだろうね」
「そんな……ひどい」

 フランソワーズは、ジョーの横にしゃがみ込むと、彼の腕にぎゅっと強く縋りつく。

「ジョーは全部知っていたの? だから……早くあの基地を破壊しなきゃって、言っていたのね?」
「確信は無かったよ。けれど、基地内の装置は、単純にサイボーグ手術を行うだけのものじゃ無かったし……この森に仕掛けられている罠や監視装置は、外から侵入者を拒むものというよりは、何らかの実験を行うもののような気がして…。それに……君を攫った男が言ったんだ。君は奴等にとって最高の土産だ、ってね。だから……」

 決定的な根拠はひとつも無かった。

 でも……、
 奴等が多額の現金を要求して、サイボーグ手術を斡旋していたこと。
 悪魔の誘惑に取り込まれた青年が、自分と同じぐらいの歳で、同じような体格だったこと。
 奴等がフランソワーズだけを攫ったこと。
 彼女を殺さず、更なる改造手術もせず、真っ先に、機械だらけの水槽に……おそらくは記憶を解析、或いは洗脳するらしき装置へ入れられたこと。
 脱出時に垣間見た……フランソワーズが入れられていたものと全く同じ装置に沈められている、亜麻色の髪の若い女性。
 この森に施されている様々な仕掛けと、奴等が意外にあっさりと自分達の後を追うのを止めた事。
 それらを繋げ合せると、おぼろげながら真実が浮かんできた。

 奴等の企てている悪しき計画は……もう1人の『フランソワーズ』を誕生させることではないだろうかと…――。

 そして……、
 その仮説を裏付ける……決定的な『証拠』となるものが、今、目前に在る。

「でも……私なんかを作り出す為だけに、あんな大掛かりな基地を造るかしら?」
「君だけじゃないと思うよ。『君』を作り出すことに成功したら、有名な人の……例えば各国の長となっている人物の偽者を作るつもりじゃないかな」

 そうなれば、奴等の一番の資金源となる戦争を意のままに起こすことが出来る。
 世界を征服することが出来る。

「なんて卑怯なの……」
「需要はかなりある筈だよ。サイボーグでは無いとしても……自分と全く同じ顔、記憶を持ち、且つ自由に操れるダミーを欲しがる人間はたくさん居るだろうしね」
「同じ、記憶…?」

 フランソワーズの心に、ふ、と何かが引っかかった。

「ああ。たぶん……彼女には君の記憶が植え付けられていたと思う。自分の…本来の記憶が残されていたのか、それとも完全に消されてしまっていたのかは分からないけど…」
「私の記憶が……彼女に…?」

 ――自分と同じ……記憶――

 彼女が、彼女自身の記憶を消去され、自分(フランソワーズ)の記憶だけを持っていたとしたら……。
 自分と同じ想いを抱いていたとしたら……。

 ――……………もう……終わりに…したい…――

 脳裏に蘇る言葉。景色。
 そして……胸を締め付けられるような、哀しき想い。

「そ、そんな……まさか…」

 夢だと思っていたあの断片が、現実だとしたら…――。

「フランソワーズ?」

 フランソワーズの異変に気付いたジョーが、心配げに彼女を覗き込む。

 フランソワーズは、ひとつ大きく深呼吸をすると、自分とそっくりの彼女を見つめながら、静かに言葉を紡ぐ。

「私、もしかしたら……彼女の記憶を『見て』しまったのかも知れないわ」
「え?」
「さっき言ったでしょう。貴方に助けて貰う直前に、夢を見たって…。あれは夢じゃなかったのかも…」
「どういうことだい?」
「覚えている、の。この森の景色も…、彼を……貴方を撃とうしたことも…」
「君が……僕を?」
「ええ」

 夢だと思っていたその記憶は、森の中から始まり、森の中で終わっている。
 けれど、大半は不鮮明で、しっかり覚えているのは極一部だけだった。

「でも……やっぱり、ただの夢かも知れない…」
「いや、違うと思うよ。君が見た『夢』は、たぶん、あの装置に入れられてから見たものだ。だとしたら……」

 装置のスイッチが入れられる前に破壊したと…、彼女を救い出したと思っていた。
 だが、スイッチは入れられてしまっていたのかも知れない。

 その僅かな時間に、フランソワーズは彼女の記憶を見た。
 いや、或いは……彼女自身となって、記憶したのかも知れない。

「ジョー……」
「フランソワーズ、覚えていることを話してくれないか? 僕は……知らなきゃいけないんだ。巻き込んでしまった彼と彼女に、僕がしてあげられることは、そんなことぐらいだから……」

 自分がBGを裏切ったから……彼等は利用され、命を奪われた。

 どんなに謝っても、許してもらえるとは思わない。
 償えることじゃない。
 けれど、せめて彼等がどんな状況に追い込まれ、何を感じ、どうしてこんな無残な姿となったのかを、心に刻んでおきたかった。
 それを、己の背負う十字架として刻み付けたかった。

 それに……フランソワーズだけに、そんな辛い記憶を持たせておくわけにはいかない。

「夢、だったとしてもイイの?」
「構わないよ。夢なら……悪い夢は話した方がイイって言うし、ね」
「ジョー…」

 フランソワーズは、ジョーを見上げ小さく笑む。

 彼の優しさが、堪らなく嬉しかった。

 彼のそんなところに自分は惹かれた。
 これからも変わらずにいて欲しいと思う。
 でも、その優しさが、こんな状況では鋭い棘となり、彼の心を容赦なく抉ってしまう。

 彼は不器用だから、逃げることも、誤魔化すことすら出来ず……ただ受け止めて、傷付いて……それなのに、「大丈夫」と微笑(わら)って……。

(貴方だけを苦しませないから……)

 フランソワーズは縋り付いていた彼の腕を、包むように抱き締める。
 すると、ジョーはちょっと恥ずかしそうに目を細め、フランソワーズの手に己の掌を重ねた。

「話して、フランソワーズ…」
「……ええ」

 こく、と頷いてから、フランソワーズは再び彼等を見つめる。

 自分の中に刻まれた記憶が、彼女のものであるのなら……
 こうして話すことが、供養になるのだろうか?

 彼女の想いが、彼に届くのだろうか…?

「彼女は……私は貴方と一緒にBGから逃げようとしていたの。だけど、貴方は深く傷付いていて、森の中で動けなくなって…。貴方は私だけを逃がそうとしたけれど、私は貴方を置いて行けなかった」
「フランソワーズ……」
「ジョーは必死に私を護ろうとしてくれたわ。此処に辿り着く前のことは覚えていないけれど……きっと、本当の貴方と同じように、必死に…自分の身体を楯にして護ってくれたんだと思う。それなのに私は……戦うことに疲れてしまって……、自分の運命に耐え切れなくなって……、貴方がこれ以上傷付く姿を見ていられなくて……全てを終わらせようとしたの」
「全てをって……一緒に死のうとしたの?」
「ええ。私は……動けない貴方に銃を向けて…」
「じゃあ……」

(彼を撃ったのは、彼女なのか…?)

 ジョーは横たわる彼女の右手を見つめる。
 彼女の手には、確かに銃が握られたまま残っている。

 彼女は自分達を……いや、自分(ジョー)を抹殺する為に作られた刺客。
 標的(ターゲット)であるジョーを確実に仕留める為に、『一緒に死ぬ』方法を取るように操られていたとしても……
 コレはあくまでもテストであり、『彼』は偽者(ダミー)だ。
 この後、実際に作戦を実行させなくてはならないのだから、一緒に死んでしまっては意味がない筈…。

「フランソワーズ、彼女は……本当に彼と一緒に死のうとしたのかい?」
「ええ。本気で……一緒に死ぬつもりだったわ。貴方だけを殺そうなんて……、そんなこと、微塵も思っていなかった」

 フランソワーズは自分が感じた通りに…正直に答える。

 彼を殺したかったわけじゃない。
 彼と共に逝きたかった。
 彼を残すのも、自分だけが残されるのもイヤだった。

「それじゃ、彼女が彼を撃って、その後、自分で自分を撃ったのか? いや、そんな筈は……」

 そんな筈は……ない。

 彼は彼女に覆いかぶさるように、うつ伏せに…
 彼女は彼の右腕に護られるようにして、仰向けに倒れている。
 しかも、彼女の銃を持つ手は、彼の腕の下、だ。

 彼女が彼を撃った後に、自殺したとは思えない。

「…………撃てなかったの」
「え?」
「私、どうしても貴方を撃てなかった」

 その時の……彼女の苦し過ぎる葛藤が胸に蘇り、フランソワーズの瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちた。

 彼に銃を向けた瞬間……彼を撃て、と頭の中で声が響いた気がした。
 彼を撃ちさえすれば、この絶望と苦しみから解放されるのだと……
 直ぐに自分も彼を追える。そうすれば、天国で2人で幸せになれるのだと……。

 けれど、どうしても撃てなかった。
 大好きな彼を、傷付けるなんて出来なかった。

「私が見た夢は、ここまでよ…」

 この『夢』が彼と彼女の『現実』ならば、彼等はこの後どうなったのだろうか……?
 何故、こんなことになってしまったのだろうか?

「彼女は、やっぱり……死ぬことを選んでしまったのかしら?」

 一度は撃つことを躊躇い、銃を降ろしたけれど…
 結局……

「いや、違うよ。……きっと、その直後にBGに撃たれたんだ」
「え?」
「狙われたのは、『彼女』だ。『彼』を殺せなかった時点で、奴等にとっては失敗だった。だから、彼女は廃棄処分されることになって……」
「彼が、彼女を庇った、の…?」

 途切れたジョーの言葉の続きを、フランソワーズが繋ぐ。

「ああ。でも、庇い切れなくて……2人とも……」

 きゅっと唇を噛む。

 残酷な―――結末。

 奴等が非情な連中であると分かっていた。
 不要となったものは、例え『人間』であっても容赦なく切り捨てる。
 そして、簡単に『次』を貪る。

 『彼女』の代わりは、既に基地内に用意されている。
 もちろん、『彼』も……。

「もしかしたら……彼と彼女の前にも…」
「かも知れない…」

 彼と彼女が、自分達の偽者として最初に作られたものであるとは限らない。
 フランソワーズが危惧した通り、もう何人もの『彼』と『彼女』が作られ、犠牲となっているのかも知れない。

「こんなこと……もう繰り返させない」

 ジョーはそう自分自身に言い聞かせ、強く誓う。

 こんな哀しくて残酷な連鎖は、一刻も早く断ち切らねばならない。
 あの地下基地は、自分の手で叩き潰さなくてはならない。

「そう…よね。こんな酷いこと、止めさせなきゃ…」
「ああ」
「ジョー、私も戦うわ。戦っても…過ぎてしまった時間は戻せないけれど、でも…何もしないで見ているなんて、できない」

 どんな理由であっても、人殺しである『戦い』は、悪だ。
 けれど、新たな犠牲者が出ると分かっていて…、それを阻止する力を持っていながら何もせず見過ごしてしまう事も……悪であり罪。

「厳しい、戦いになるよ?」
「そんな事、分かっているわ」
「でも……」
「…私は足手まとい? 私が行くと貴方や皆の迷惑になってしまうのなら、諦めるわ」
「そんなことはない! 君が一緒に来てくれると助かる、よ。……分かった。皆と合流したら、一緒に基地へ戻ろう」

 ジョーは、ほぉ〜っと息を吐き出した後で、優しい眼差しで彼女を見つめる。

「それなら尚更、今のうちに休養をとっておかないと、だね。皆が来るまで、何処か…雨の凌げる場所で休もう」
「それじゃ、私がまた見張り役を引き受けるわ。だから、ジョーは休んで」
「いや、一緒に休もう」
「え? でも……」
「大丈夫。奴等は追っては来ないよ」
「どうして…そう言い切れるの?」
「この森は『彼女』をテストする為の場所なんだ。僕達は奴等から逃れられたワケじゃない。僕達は未だ、奴等の手の中に居るんだ…。奴等が僕達を追って来ないのは、僕達の居場所が分からないから、じゃない。この森の外へは絶対に逃さない自信があるから、だ」

 おそらく、この森には自分達がどう足掻いても出られない、強固な仕掛けが施されているのだろう。
 だから、奴等は躍起になって自分達を追おうとはしない。

「それに……おそらく、奴等は僕等を生きたまま捕まえたいんだと思う。彼と彼女を殺した仕掛けがソコにあるのに、撃っては来ないからね」

 ジョーはそう言って、木々の枝に紛れてあるレーザー砲らしき銃口を、視線で示す。

「え? あ……、どうして、私の眼には全然……」

 彼等に近づく時に充分に探った筈なのに、フランソワーズの眼には何も捉えられなかった。

「『彼女』は君と同じ能力を持っているんだよ。此処は『彼女』をテストする試験場(フィールド)、つまり…君に見つからない仕掛けを作っておかないと意味が無い、だろ」
「ジョー……貴方、最初から気付いていたのね?」

 フランソワーズの拗ねた瞳に、ジョーは「まあね」と曖昧に返事をし、微苦笑する。

「撃ってくるようだったら、破壊しようと思ったけど、その気はないらしいね」
「つまり……私達を捕獲して、今度は私達2人の偽者を皆の元へ送り込む作戦に変更した、というコトかしら?」
「だろうね。もしくは、捕らえて洗脳する、とかかな…」

 2人は顔を見合わせると、小さく頷き合う。

 追い詰められたこの状況が怖くないと言えば嘘になる。
 けれど、2人一緒なら……諦めずにいられる。
 ―――生きる、ことを。

「私達は生きなきゃいけないのよね……彼と彼女の分まで…」
「ああ」

 ジョーは小さく頷くと、冷たくなってしまった彼女の手から銃を抜き、彼の手をそっと彼女の手に重ねる。

 例え本物のフランソワーズではないとしても、『彼女』の手に人殺しの道具である銃を持たせたままにはしておけなかった。

 彼女達はもう永遠に……戦わなくても良いのだから。

「ジョー……」
「行こう」
「あ、ちょっとだけ待って」

 彼のさりげない…切な過ぎる優しさを、心を震わせながら見守っていたフランソワーズは、立ち上がりかけた彼を慌てて制し、近くに咲いている小さな野花を一輪だけ摘むと、繋がれた手と手の傍らに飾る。
 そして、胸の位置で両手を組んで、祈りを捧げた。

「ごめんなさい。もう暫く此処で待っていてね。全てが片付いたら……もっと綺麗な…誰にも邪魔されない静かな場所で、ずっと……ずっと2人で居られるようにしてあげるから…」





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