想い
†† ps. ††



 ジョーの腕の中で、フランソワーズは途方もない安堵感に包まれていた。
 彼の元へ帰ってきたのだと、改めて実感する。

 もっと強く抱き締められたい。
 もっと、もっと……彼を感じたい。

 どうしようもなく…彼が好きだった。

「ありがとう、フランソワーズ。大切にするよ」

 耳元で囁かれた彼の声に、身体の芯まで溶けてしまいそうだった。
 永遠に続けば良いと願っていた時間に、不意に終止符が打たれる。
 ジョーの腕がゆっくりと自分を解放する。
 たったそれだけの事なのに、途端に不安は容赦なく襲ってくる。

(私を……放さないで)

「早く、博士の所へ戻らないと。君を治療できるのは博士だけだからね」

 ジョーの優しい瞳。
 彼が心底自分を心配してくれているのが分かる。
 けれども……フランソワーズの心はちくりと痛んだ。

「……痛い」

 潰れそうなくらいに。

「何処か痛むの?」

 自分の小さな呟きを聞き逃す事無く、ジョーは心配そうに自分を覗き込む。

「胸が……痛い、わ」
「崖から落ちた時に打ったんだな……やっぱり早く博士に診てもらわないと」
「ううん。博士には治せないわ」

 ……博士に治せる筈が無い。

「え?」

 ジョーがさぁっと蒼褪める。
 彼が、自分の怪我の状態がギルモア博士にも治せないぐらい重傷だと錯覚していると知り、フランソワーズは慌てて首を横に振った。

「違うの……怪我じゃなくて…………・痛いのは心なの」
「フランソワーズ……」

 やっとフランソワーズの意図することが飲み込めたジョーは、そっと……まるで宝物を包み込むように優しくフランソワーズを抱き締める。

「私、おかしくなってしまっているの。貴方から離れると……苦しくて」

 フランソワーズはジョーの背中をぎゅっと抱き締める。
 離れてしまわないように。

「貴方に逢えないこの1週間、本当に淋しかった。逢いたくて逢いたくて……ずっと、心が痛かったわ」

 ドイツに行く事を決めたのは自分。
 どうしても彼に手作りのプレゼントをあげたかった。
 彼(0013)を失った悲しみを少しでも癒す事が出来るのなら……どんなことだってする。
 けれど・……
 逢えない時間が、淋しくない筈が無い。
 苦しくない筈が無い。
 逢いたくて、逢いたくて、逢いたくて!

 この1週間で改めて思い知った。
 自分がどうしようもなく彼を好きだということを。

「私の心を癒せるのは……貴方だけよ、ジョー」
「フランソワーズ……」

 2人は抱き合う力を緩め、視線を合わせる。
 フランソワーズの長い睫毛が、溢れ落ちようとする涙で濡れていた。

 惹き寄せられる唇と唇。
 瞼を閉じる瞬間、涙が頬を伝って滑り落ちた。
 
(……愛してる)

 微かに触れ合っただけの、キス。

「もう放さない」

 目前にあるジョーの瞳が真っ直ぐに自分を見つめていた。
 彼の言葉は、自分への宣言というよりは、彼自身への決意のように感じられた。それが、とても嬉しかった。

「ジョー」

 彼の指が自分の頬を伝う涙を拭い、そのまま唇をそっとなぞった。

(あ……)

 ぞくっと身体の中心が痺れる。

 再び重なり合う唇と唇。
 啄ばむような優しいキスは、次第に―――


― Fin ―
 


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祐浬 2002/4/25