最後の瞬間




 全てを焼き尽くす紅蓮の炎。空を覆う黒煙。
 ジョー達の活躍により、BGの基地は最後の瞬間を迎えようとしていた。

 爆風から身を守る為に一時岩場の影に潜んでいたフランソワーズは、身の安全が確保された事を確認した後、影から這い出し、BGの基地の終演をその目で見守った。

 見えるのは……今正に焼け落ちようとしている建物(外側)だけでは無かった。
 内部の様子が、フランソワーズの目には鮮やかに……残酷に描き出される。
 崩れ落ちる建材に押し潰され、炎に焼かれるBGの兵士達。
 敵とは言っても、人間である事に変わりは無い。
 その命が次々と摘み取られて行く現実。

 今回ばかりじゃない。
 いつも、いつも……戦う度に、フランソワーズは残酷過ぎる場面を見続けてきた。

 見ようとしなくても、他の情報を得る為にはどうしても見えてしまう、殺戮。
 直接的ではなくても……結果的に奪ってしまったたくさんの命。
 殺(や)らなければ、殺(や)られる―――それが戦場の哀しい現実。

(こんなこと……いつまで続ければ良いの?)

 がくがくと身体が震えた。

 自分の手が血で汚れていることは、逃れようの無い事実。

 自分達が正しいと、誰が言えるだろうか。
 勿論BGが正しいとは言えない。彼等を放ってはおけない。許す事なんて出来ない。
 だからと言って、彼等を殺すことを正当化して良い筈無い。
 そんな権利が自分達に許されている訳ではない。

(もう……見たくないのに。聞きたくないのに……)

 人間の命の尽きるその瞬間を、自分はあとどれぐらい見続けなければならないのだろうか。
 人々の断末魔を、幾度聞かねばならないのだろうか。

「フランソワーズ!」
「ジョー……」

 戦場から加速装置で戻ってきたジョーが、フランソワーズの前に姿を表す。
 丁度、彼の姿で基地が遮られ、もう自分の意思では現実から目が離せなくなっていたフランソワーズはほっと安堵する。
 
「作戦は成功したよ。皆、ドルフィン号へ向かっている。僕達も……フランソワーズ?」

 ジョーはその時になって、フランソワーズの瞳に涙が溜まっている事に気付いた。
 その涙の理由(訳)も、直ぐに察しがついた。

 フランソワーズが見つめていたのは……自分達が破壊したBGの基地。
 その一部始終を彼女は見てしまったのだろう。

 また……

 ジョーはフランソワーズに歩み寄ると、ばつが悪そうに俯く彼女の顎に指をかけ、くいっと上を向かせると、すかさず唇を重ね合わせる。

「っっ!?」

 突然の……不意打ちのキスに、フランソワーズは慌てふためき、頬を薔薇色に染める。

 ジョーは極至近距離から、フランソワーズと視線を合わせる。
 自分以外のものが、彼女の目に映らないように…。

「……もう、見ないで」
「え?」
「戦いは終わったよ。だから、もう僕だけを見て…」
「ジョー……」

 自分の気持ちを理解し、優しく癒そうとしてくれているジョーに、フランソワーズは胸が熱くなる。

 フランソワーズは自分を見つめるジョーを見つめ返した。
 彼だけを……。

「ジョー……私…」

 ――キスして――

 恥ずかしくて言葉には変えられず…、
 けれども、溢れる想いも止められず、フランソワーズは顔を上げたまま、瞼を閉ざす。

 何も考えられなくして欲しかった。
 見てしまった…脳裏に焼き付いてしまった景色を忘れることは不可能だ。
 だから……
 ジョーの事だけで頭をいっぱいにしたかった。

 ジョーはフランソワーズの願いを聞き入れ、彼女の震える身体を両手で抱きしめ、自分へと引き寄せると、彼女の柔らかな唇を自分の唇で塞いだ。
 初めは優しく……角度を少しずつ変えながら……触れ合うだけの口付けは、直ぐに深い官能的なキスへと落ちていく。

「…んっ、…ふ…」

 ジョーはフランソワーズの身体が快楽に支配され、その力が抜け落ちるまで、キスし続けた。

 ジョーの熱く激しいキスは、フランソワーズの思考を柔らかく奪っていく。
 傷付いたフランソワーズの心を癒し、悲しみを浄化させていく。

 長い時間、2人は甘くて切ない時間(とき)をまどろんだ。

 やがて……唇が解放されたフランソワーズは、ジョーの胸に顔を埋める。
 彼の腕の支えなしでは立っていることは不可能だった。

「君の受けた悲しみは、僕が全部引き受けるから…」

 肩で浅い呼吸を繰り返しているフランソワーズをしっかりと抱き締め、ジョーは彼女の耳元で囁く。

「ジョー……」

 ジョーの言葉が……優しさが嬉しかった。
 ジョーが自分の側に居てくれる限り、自分はこの過酷な現実を堪える事が出来る。
 彼が抱き締めてくれる限り……。

 フランソワーズはジョーを恥ずかしそうに、そして少しだけ恨めしそうに見つめる。

「もうっ こんなに激しいキスされたら、私…」
「キスだけじゃ満足出来なくなっちゃう?」

 フランソワーズの言葉の先を、ジョーは悪びれる事無く、悪戯っぽく笑みながら告げる。

「っ/// 馬鹿っ ジョーなんて、ジョーなんて…」
「嫌い?」
「キライよっ」
「え?」

 驚き、困惑した表情を浮かべるジョーに、フランソワーズは、くすっと微笑んだ。

「……嘘。本当は……」

 ――好き――




 2人がドルフィン号へ戻るには、今暫くの時間が必要だった―――。



― Fin ―
 


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祐浬 2002/6/22