優しい手
― 「想い」番外編2 ―



「あ……痛…」

 フランソワーズが小さな悲鳴を上げ、その美しい顔を苦痛に歪めた。
 004はぴたり、と手を止め、心配げに彼女を見つめる。

「すまん、大丈夫か?」
「ん、大丈夫」

 フランソワーズは潤んだ瞳で004を見上げ、それから、ほ…っと艶っぽい溜息を零す。

「でも…もうちょっと、優しく、して」
「充分優しくしているつりだが…」
「ん……そうね、分かってる」
「このままにする方が、辛い、だろ」
「意地悪、ね」
「痛みは直ぐ治まる。我慢しろ」
「うん。……続けて」

 フランソワーズは観念して、彼に続きを促す。
 004は再び手を動かした。

 フランソワーズが痛みに耐え、我慢していることは明確だった。
 涙目のフランソワーズに更なる苦痛を与える事に良心が痛んだが、004としてもこのままでは終われない。

「……ん…ふ……」
「我慢しないで、声に出せば良い」

 零れる声を懸命に噛み殺す彼女に、004が優しく促す。
 フランソワーズは頬を朱に染めながら、小さく首を横に振った。

「……恥ずかしいわ」
「聞いているのは俺だけだ」
「だから恥ずかしいのよ……あぁっ」

 言っている側からフランソワーズは声を上げ、びくん、と身体を震わせる。
 004がいきなり核心に触れたから、だ。

 フランソワーズは思わぬ自分の声を恥じ、恨めしげに004を見上げる。
 004は口元だけで薄い笑みを浮かべていた。

「酷い、わ……いきなりだなんて」
「ここを放っておく訳にはいかないだろう」
「それはそうだけど……心の準備が…」
「今更何を言っている。覚悟は出来ているんだろ?」
「出来てるけど……」

 フランソワーズは「意地悪ね」と唇を尖らせた。

「それとも……この手に触れられるのは、嫌、か?」

 004は哀しげに自分の『手』を眺める。
 手としての役割も勿論果たしてはいるが、これは武器、だ。
 冷たく、硬い、金属の手。
 滑らかで柔らかい女性に触れるには、不向きな『手』。

 フランソワーズは小さく首を振りながら「そんなこと…」と呟くと、004の手を握り締め、自分の頬へと導き、押し当てた。

「私は貴方の手、好きよ」
「こんな冷たい鋼鉄の手が、か?」

 その鋼鉄の手にも、彼女の頬の柔らかさと温もりは感じる。

「優しい手、だわ」

 フランソワーズは004の手に頬擦りする。
 彼が自分に触れる時、細心の注意を払っていることに、フランソワーズは気付いていた。
 自分を気付けないように、痛みを与えないように、注意深く…壊れ物を扱うように触れてくれる。

「人殺しの道具だ」
「違うわ。だって、ピアノだって弾けるし、こうして私を癒してくれることも出来る、素敵な手よ」
「フランソワーズ…」

 癒されているのは自分の方だ、と004は思う。
 彼女の言葉が、温もりが、自分の心に染み渡り、溶かし、癒してくれる。

 004は、ふっと笑むと、彼女の頬から手を引き抜き、彼女の手を握った。

「お前さんの手は柔らかい、な。その綺麗な手をこんなにしてしまって」

 フランソワーズの白く美しい手は、今は無残にも火傷と切り傷で散々な状態だった。

「だって……」

 全ては、慣れないガラス細工造りの副産物だった。
 日に日に増えていく怪我。それを治療するのが、004の日課となっていた。
 しかも、今日は一段と酷い火傷を負って帰って来た。

「案外、不器用なんだな」
「酷いわ…。初めて、なんだもの…仕方ないじゃない…」
「そう、だな。……さて、続きをしようか」
「そっと、よ。優しく、ね……」

 うるうると瞳を潤ませて懇願するフランソワーズに、004は苦笑しながら馴れた手つきで彼女の怪我を消毒し、火傷の薬を塗った。



―Fin―
 


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祐浬 2002/7/26