プレゼントは…




『誕生日?』
「そうなのっっ」

 フランソワーズは今にも泣き出しそうな表情(かお)で、ゆりかごごとぷかぷかと宙を漂う001に詰め寄る。

「私、ジョーのお誕生日だけ教えてもらうの忘れてて……ほらっ 色々あってそんなコト聞ける状態じゃなかったし! それで、今日博士に聞いたのっっ そうしたら今日だって言うのよ!」

 一気に事の経緯を説明し、フランソワーズは「もぉ〜〜〜どうしよう〜〜」とその場にヘタリ込んだ。

(ソウイウ事カ……)

 001は何故自分がフランソワーズの部屋へ強奪されたのか、その事情を悟る。
 本来ならこの手の話の相談には同性の友達に限るのだが、ここには彼女以外に女性は居ない。
 それで……未だ「男性」とは言えない自分が彼女の相談相手に選ばれたのだろう。

(サテ、ドウシタモンカナ……)

 時間は既に夕方。
 今から彼女が1人で外出することは難しい。
 こんな時間に買い物に行くと言い出したら、皆こぞって危ないから明日にしろと言うだろう。
 それでも無理に行きたいと言えば行けない事は無いだろうが、誰かが……多分ジョー本人が、彼女の護衛として付けられる可能性が大だ。
 それでは意味が無い。

 護衛役を何とかジョー以外の連中に漕ぎ着けさせても・・…、彼女は自分の行動(我侭)がジョーの為と気付かれるのは嫌だと思っているので駄目だ。

 自分が彼女を街まで瞬間移動(テレポート)させてあげられれば良いのだが、生憎、自分が移動させられるのは未だ意識を持たない物体だけ。

「もっと……もっと早くにお誕生日を聞いておけば良かったわ」

 フランソワーズが、くすん、と鼻を鳴らす。

 せめて昨日……今日の午前中だって構わない。
 そうすれば、何か用意することが出来た筈。

 そんな彼女の心の声が、001には容易く聞き取れた。

(誕生日カ……)

 大好きなフランソワーズの為だから、何とかしてあげたい。

 001は当の本人…ジョーの様子を伺う。
 ジョーは自室のベッドの上で、昼寝(夕寝v)をしていた。
 イケナイ事と重々知りながら、001は遠慮なくずかずかと彼の心の中まで潜入する。眠っているので、それほど多くの情報を得ることは出来ないが……。

『009本人ハ、今日ガ自分ノ誕生日ダッテ忘レテイルミタイダケド?』
「忘れていたって、今日がお誕生日だって事に変わりはしないわ!」

 正確な情報を伝えただけなのに、フランソワーズは何故か益々落ち込んでしまった。

「忘れているなら……私が思い出させてあげたかったわ…」

 ぽつりと彼女から零れ落ちた呟き。

(……ヤレヤレ)

 すっかり半ベソをかいているフランソワーズを見て、001は赤ん坊らしからぬ溜息を零した。

 泣いているフランソワーズは見たくない。
 彼女は自分にとって、とても大切な女性だ。
 赤ん坊である自分の面倒を一番見てくれている。
 ミルクの飲ませ方もオムツの取り替え方も、沐浴も……そして抱っこも、彼女が一番上手だし、安心できる。
 他の連中が彼女に勝てることは天地がひっくり返ろうが無いだろう。

 彼女の笑っている顔が一番好きだ。

 そして、その彼女を微笑ませる事が出来るのは……彼女が密かに想いを寄せているジョー(彼)だけだ。
 密かに、と言っても……ジョーも彼女が好きなのだから、実は立派な両思いだ。
 なのに……2人とも、お互いに肝心な事は言えないでいる。

 どうやら大人の世界は子供の世界より単純じゃないらしい。

(仕方ナイナ……)
 
 001もジョーは好きだ。
 フランソワーズには敵わないが、孤児院で小さい子の面倒をみた経験のあるジョーは意外と赤ん坊の世話が上手だ。(時々失敗もするがv)
 フランソワーズとジョーと自分の3人で散歩に出ると、周りの人が自分達を「家族」と誤解するのも、実は結構気に入っていたりする。
 時折見せる彼の優しい目も、大好きだ。

 それに……これから一緒に暮らす彼には、何かと世話になるだろう。

 001はフランソワーズの部屋の中を、能力(ちから)を使って密かに物色する。

『ふらんそわーず、ぴんくノ大キナりぼん、持ッテルヨネ』
「ピンクのリボン? 持ってないわよ」

 脈略のない001の突然の問いに、フランソワーズはキョトンと001を見上げる。

『ぴんく色ノ大キナ布ガ有ルダロ』
「大きな布? あっ スカーフのことね。有るわよ。それがどうしたの?」

 小首を傾げるフランソワーズ。

『ソノすかーふデ髪ヲ結ンデミテ』
「髪を結んでどうするの?」
『良イカラ僕ノ言ウ通ニシテ』

 フランソワーズは訳の分からぬまま、取り敢えず001の指示に従う事にする。
 引き出しから大きな桜色のスカーフを取り出すと、それを丁寧に折り、カチューシャを外し、そのスカーフで髪を1つにで結ぼうとする。

『違ウヨ。結ビ目ハ頭ノ上。結ビ方ハ蝶々結ビ』
「え? ……こう?」

 001の細かい注文に戸惑いながら、それでもフランソワーズは言われた通りに、鏡の前でスカーフを頭の上で蝶々結びにする。

『ウン。完璧。ジャ……目ヲ閉ジテ』
「変な001ね」

 フランソワーズはくすくすと笑いながら、ベッドの端に座ると目を閉じる。

 彼女が目を閉じているその隙に、001はうたた寝をしていたジョーをフランソワーズのベッドの上に強制転送(テレポート)させる。

『009、目ヲ覚マスンダ!』
「え!?」
「きゃっっ」

 001の厳しい声が頭の中で大音響で響き、ジョーはがばっと飛び起きる。
 そのジョーの声に驚いて、フランソワーズは閉じていた目を開き、振り返った。

 ジョーとフランソワーズは視線を合わせると、暫しフリーズ(硬直)した。

「なっっ ジョーっっ ど、どうして?」
「あれ? 僕はどうしてこんなところに?」

 互いに状況が呑み込めずパニックする2人を、001は満足そうに見下ろす。

「フ、フランソワーズ? ……その格好……」

 ジョーはフランソワーズの頭の上のピンクのリボン(スカーフ)に気付くと、顔を赤らめる。

「っっ!!」

 ジョーの視線でフランソワーズは自分がスカーフを結んだままであることを思い出し、かあぁぁっと見事に耳まで真っ赤に染まった。

『009、オ誕生日オメデトウ。君ヘノぷれぜんとダヨ』

 お互いに真っ赤になって俯く2人に001は涼しい顔でそう言うと、完全犯罪宜しくさっさと姿を消す。

「……っっ!! もう〜〜〜〜っっ 001(イワン)のばかぁ!」

 フランソワーズはやっと、全てが001の陰謀だったことを悟った。


― Fin ―
 


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祐浬 2002/5/16