Private Beach

― Story by Shion & Illustration by Yuuri ―





「……! 見て、ジョー……!!」

 潮風にそよぐ亜麻色の髪。
 少し長めの薄いパステルグリーンのシャツに身を包んだフランソワーズが、1人――華奢な紅いサンダルをレジャーシートの傍に脱ぎ捨て、白い砂浜を波打ち際へと向かって軽い足取りで駆け出してゆく。

 遠く海の彼方を見つめる、美しいマリンブルーの瞳。
 チェリーピンクの唇が、思わず『綺麗……!』と小さく呟くのを、ジョーは左斜め後方からそっと見守るようにして――。
 それから、彼も彼女と同じ視線の先へ自分のライトブラウンの瞳を馳せた。


 ドルフィン号を自由自在に駆るジョーたちだからこそ訪れることが出来る、ここは絶海の孤島。
 この麗しくも壮大なる大海原に……今、ジョーとフランソワーズは2人きり。

「何だか……テレビで見たあの海水浴場の大混雑を思うと、すごい贅沢をしてる気分になるね」
「ええ。ホントに、こんな素敵な場所を独占できるなんて……」

 心地よく繰り返す波音と高らかなカモメの鳴き声だけが、辺りの静寂を破る唯一の音(もの)。
 2人は顔を見合わせると、どちらからともなく微笑い出した。



 ――つかの間の休息。
 久し振りに舞い降りた、2人だけの時間。

 こんな安らぎの時間(とき)が永遠に続くことはないということを、2人はこれまで幾度となく、わかりすぎるほど思い知らされてきた。

 時間(とき)の流れと――宿命。
 決して逃れられない……逆らえないもの。

 でも、だからこそ……大切な人と過ごす現在(いま)を大事にしたい。
 そう思う気持ちは、ジョーもフランソワーズも同じくらい強く純粋だった。



「ね、せっかく来たんだもの! 早く泳ぎましょう?」
「うん、そう……」

 『そうだね』。
 ――そう言おうとして……ジョーは不覚にもその言葉を最後まで告げることが出来なかった。

 ジョーのすぐ目の前で、おもむろにシャツを脱ぎ始めたフランソワーズ。
 ほんの少し恥ずかしそうな彼女の仕草に、そして、次第に露になってゆく完璧なるプロポーションに……彼の視線は釘付けになる。


 いくつもの真っ白な雲を抱いて、どこまでも果てしなく広がる空の青。
 真夏の太陽が放つ熱い陽射しをその身に浴びて、キラキラと優雅に煌く海の碧。

 ――けれど、ジョーには何よりも……彼女の少し大胆なその水着と、吸い込まれそうなほどに深く澄んだ瞳の蒼が眩しくて。


「……ジョー?」
「! あ、いや……う、うん」

 目のやり場に困って逸らす視線は、降り注ぐ太陽の光のせい――とばかりに、本音をフランソワーズに悟られないよう何気なく振る舞いながら。


『永遠を望むことは叶わないけど……でも、少しでも長く、キミのそんな笑顔を壊さず見ていたいから――』


 ジョーは、この平和な大地と、世界中でたった1人の掛け替えのない女性(ひと)を守り抜くために――これからも課せられた宿命に負けることなく戦い続けることを、改めて固く心に誓うのだった。


Recollections of 1 summer.




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