Let's talk a lot
†† vol.5 ††



「???」

 今まで助手席で他愛も無い話をきゃいきゃいと話し続けていたリノアが、急にぷっつりと大人しくなり、スコールはちらりと横目で彼女を確認する。

 喋り疲れて居眠りでもしているのかと推測したのだが、予想に反しリノアは眠ってはおらず、滅多に見れない真剣な表情を浮かべ、膝の上でぎゅっと握り締めた自分の手を睨んでいた。

「具合でも悪いのか?」

 オフロードタイプのこの車は、サスペンションが固く振動が身体に響き、お世辞にも乗り心地が良いとは言えない。その上、凄まじい悪路続きだったのだから、車に酔ったとしても無理は無いと、スコールはアクセルを緩める。
 何時も元気過ぎる程元気な彼女が、沈んでいるという事は、事態はかなり深刻な筈だ。

「あ、違うの。大丈夫」

 スコールが車を停めようしていると知り、リノアはぱっと顔を上げ、何時もと変わらぬ笑みを取り繕う。

「無理するな。急ぐ旅じゃない」
「本当に大丈夫だよ」
「俺が疲れた」

 このまま押し問答してもらちが明かないので、スコールは自分が疲れた為だと宣言し、安全(と思われる)な場所に車を停めると、窓を開いて新鮮な風を車内に取り入れる。

 二人は、孤児院からバラムガーデンのあるフィッシャーマンズ・ホライズンに向かう途中だった。
 孤児院から白いSeeDの船に乗り、ティンバーの近くまで送って貰った。
 直接、フィッシャーマンズ・ホライズンに向かわなかったのは、リノアが昔の仲間達にどうしても会って行きたいと言った為。
 それが、彼女なりのケジメの付け方であると分かっていたし、それ程遠回りにはならないので、スコールは何も言わず承諾した。

 月の涙の一件でモンスターが大量発生し、未だ至る所で破壊活動を繰り返しているので、交通事情は最悪だった。鉄道は何れも不通で再開の見通しは無く、幹線道路も至る所で寸断されている。
 ティンバーからフィッシャーマンズ・ホライズンに向かうこの道も、モンスターの襲撃有り、瓦礫で迂回を余儀なくされること数回で、退屈することは無かった。

 少しシートを倒し、限られた空間で窮屈そうに背伸びをするスコールを見て、リノアは自然と笑顔になる。

「ごめんね。私がティンバーに寄りたいなんて言ったから…。船でF・Hまで送って貰えばこんな面倒じゃなかったのに…」
「リハビリだと思えば良いさ」
「リハビリ?」
「ガーデンに戻ったら、直ぐに仕事に駆り出させるのは間違い無いからな」
「そっか…、そうだね…」

 リノアの顔に再び影が落ちるのを、スコールは見逃さなかった。

「どうかしたのか?」
「うん。スコール、あのね…ひとつお願いがあるんだけど…」
「……何だ?」

 また、トンデモナイ事を言い出すのでは無いかと不吉な予感を抱きつつ、スコールはリノアの次の言葉を待つ。

「G.F.をジャンクションするの、必要最低限にしてくれる?」

 その事か…、と、スコールは自分の危惧が取り越し苦労だったことを知り、密かに安堵する。
 彼女が気に病んでいたのは、G.F.のジャンクションの影響だったのだろう。

 今回、G.F.をジャンクションしていた影響で、ほんの一時ではあるが完全に記憶を失い、リノアには哀しい想いをさせた。
 あのまま一生記憶が戻らなかったら…
 そう考えると背筋が凍る。

 あんな想いをするのも、させるのも、二度と御免だ。

「ああ、分かった」
「よかったぁ〜。実は前からちょこっと嫌だったんだよねぇ」
「前から嫌?」
「だって、シヴァもセイレーンもナイスバディなんだもん」
「は?」

 自分の胸元を押さえて憂いを帯びた溜息を付くリノアに、スコールの眉の端がぴくっと上がる。

「あんなに綺麗でナイスバディの女性(ひと)を日常茶飯事に見てたら、きっと私なんてガッカリだよ」
「??? 何言ってるんだ? 彼等はG.F.だぞ」

 人間の形に近いものも居るが、彼等は人間では無い。
 そんな風に考えた事すら無い。

「G.F.と言えども、私以外の女性がスコールの中に居るのなんて、やっぱりヤダよ」
「つまり…シヴァやセイレーンじゃなくて、イフリートやバハムートをジャンクションしろと?」
「うん。それなら安心」
「あのな……」

 リノアが悩んでいた理由が、ジャンクションによる記憶障害のことでは無く、只の嫉妬だと知り、スコールは脱力し、頭を抱える。

「あっ 勿論、記憶が無くなっちゃうのも嫌だよ。でも、G.F.をジャンクションしないでいて、スコールが危険な目に合う方がもっと嫌。だって、記憶が無くなってもスコールはスコールだもん」
 
 屈託の無い天真爛漫な…天使の微笑み。
 その言葉に嘘が無いことの、何よりの証だった。


―Fin―
 

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祐浬 2003/7/9