I wish ...



 ――3月14日、PM2:00過ぎごろ。
 ここ、ギルモア研究所のキッチンには、普段はまず見られない……と言うよりも、この研究所でギルモアと9人のサイボーグ戦士たちが一緒に生活するようになってから、未だかつて誰も見たことがないようなめずらしい光景が広がっていた。
 普通の家のキッチンと比べれば遥かに広いはずの『この場所』が、非常に狭く感じられるほどの――人口密度。
 ……そう。
 何と、たった今……バレエのレッスンで朝早くから研究所を留守にしているフランソワーズを除いた全メンバーとギルモア博士の総勢9人が、このキッチンに大集合しているのである。
 目的はもちろん、1ヶ月前――2月14日にフランソワーズからもらったバレンタイン・プレゼントの御礼として、彼女に全員で作った手料理を贈ること。
 その日に『今日』が相応しいということは、あれから数日後……ちょうどフランソワーズの帰りが遅かった日の夕食時に、ジョーがみんなに話したのだった。





「……ホワイトデー?」
「うん、そうなんだ、ジェット。2月14日が『バレンタインデー』で、女性が男性にチョコレートをプレゼントする日。そのお返しとして、男性から女性にキャンディーやマシュマロを贈るのが、3月14日の『ホワイトデー』……っていうのが、日本の習慣なんだ。もっとも、今ではプレゼントとして女性に何を贈るかは、決まってるようで決まってないようなものなんだけど……」
 ジョーは彼らにそう説明しながら、フランソワーズから『特別』にもらったあの白い手編みのマフラーを思い浮かべて……何となく照れたようにみんなから視線を逸らした。
 あの日以来、彼はフランソワーズと買い物に行くときなどはもちろん、外へ出かけるときには必ずと言っていいほど彼女のマフラーを大切に愛用している。
 いつだったかハインリヒに、
『お前、そんなマフラー……持ってたか?』
と、訊かれたときには思わず彼の鋭さに動揺してしまったジョーだったが、何とか上手く誤魔化して、フランソワーズからのプレゼントとは知られずに済んだ……などということもあった。
(――本っ当にハインリヒは、カンがいいと言うか何と言うか……)
 ジョーがぼんやりとそんなことを思い返していると……。
「確かに……フランソワーズの特製ケーキやデザートへのお返しが、キャンディーやらマシュマロやらっていうのは……ちょっと物足りねぇな」
「うわっ!!」
 ふいにすぐ背後から聞こえたその『張本人』からの声に、完全に上の空状態だったジョーは、『またしても』思いっきりビックリさせられてしまった。
 慌てて振り返ると、ついさっきまでテーブルを挟んで斜め前の席に座っていたはずのハインリヒが、何時の間にか『そこ』に立っている。
 ――どうやら彼は、デザートであるオレンジ用の果物ナイフをキッチンへ取りに行っていたらしい。
「……どうした、ジョー?」
 そのナイフを片手に、ハインリヒもまた同じように驚いた表情(かお)をしてジョーを見遣る。
「い、いや、何でも……」
 ちょっと気まずそうに、はにかみながら言葉を濁す――そんなジョーの横から。
 まるで2人のやり取りを遮るかのように、張々湖が、
「ハインリヒの言うとおりアルよ!」
と、持ち前の威勢のいい大きな声を張り上げた。
「いくら日本の習慣とは言え、キャンディーアルとか、そういう簡単なものをただ買ってきてプレゼントするよりも、もっとこう……みんなの気持ちが詰まったものの方が、きっとフランソワーズも喜ぶアル!」
「おっ! 張々湖もたまにはいいこと言うねぇ!」
「……ブリテンはん。『たまには』は余計アルのことよ」
 おどけるブリテンに向かって、張々湖が横目でジロリと冷ややかな視線を送る。
 そんな彼らを両隣としてちょうど真ん中に座っていたピュンマは、思わず笑みを洩らしながらもまぁまぁと両者を窘め……そして、こうつぶやいた。
「しかし、心のこもった、ねぇ……」
 ブリテンを初め、一同も張々湖の提案に異論なく頷いたものの、いざどんなプレゼントをフランソワーズに贈るかとなると、なかなかいいアイディアが浮かんでこない。
 ありきたりのものではつまらないし――かと言って、あまり特別すぎるものもかえって不自然のような気がしてしまう。
 何か、9人全員の気持ちが込められるようなもの……。
「……おっ、そうだ!」
 しばらく沈黙が続いた後、ふとブリテンがいい考えが浮かんだ、とばかりに両手をポンっと打ち鳴らした。
 どうにも考えが煮詰まってしまっていたジェットが、
「何かいい案でも思いついたか、ブリテン?」
と詰め寄る。
 ブリテンは自信たっぷりすぎるほどの笑みでジェットに応え、そして改めて全員の顔を見渡した。
「――オッホン! フランソワーズが、あれほどの素晴らしい料理で我輩たちをもてなしてくれたのなら……我輩たちも、心を込めた手料理でお返しする、ってぇのはいかがなものかな?」
『て、手料理ぃ!?』
 イワンと張々湖を除いた7人の素っ頓狂な声がキレイにハモる。
「そうそう。1人1品とはいかなくても、コレだけの人数で協力すりゃ曲がりなりにもそれなりのものが……」
「ちょ、ちょっと待った!!」
 1人で調子よく熱弁を続けるブリテンに、ジェットが慌ててストップをかけた。
「料理ったっていったい……何を作るんだ!? 自慢じゃねぇが、俺は今までまともな料理なんて作ったことねぇぞ!! せいぜいインスタントのラーメンとか、カレーとか……」
 本当に自慢にも何にもならない話をしているジェットの横では、ギルモアとジェロニモが、
「ワ、ワシらに料理……」
などと細々と不安げに顔を見合わせている。
(『料理』に関しては、ボクもジェットとあんまり変わらないかも……)
 ジョーは1人、そんなことを思いながら人差し指で俯いた頬を軽く掻き、料理に多少心得のあるハインリヒとピュンマの2人は、メンバーたちの様子にまた違った意味での不安そうな表情を浮べていた。
「なぁにジェット、その辺ならば心配はご無用。我輩だって料理なんぞ……ほとんど作った経験はないっ!」
「……なに威張ってんだ、おめーは」
「が、しかぁし!!」
 ジェットの鋭いツッコミにもメゲず、ブリテンの演説はゼスチャーまでついてますます加熱してゆく。
「――何と言っても我々には、超一流の中華料理人がついているではないか!! ……なぁ、張々湖?」
「ワっ、ワテがみんなに料理を教えるアルか!?」
「当然でしょうに。誰がお前さん以外に他人に料理を教えられるってぇのよ?」
「そ、それはそうかもしれないアルけど……『教える』、なんてそう簡単に言ったかて……」
「ハイハイ、細かいことは気にしない、気にしない! 何とかなるって!!」





 そんなわけで……。
 結局他にいい案が思い浮かばなかった彼らは今、『ここ(キッチン)』にいるのだった。
「――みんな、準備はいいアルか?」
 手にそれぞれ張々湖が書いた調理手順のメモを持ったジョーたちは、皆――もちろんイワン例に漏れず、真っ白なコック服とエプロンを身に纏っていた。
 『せっかく全員でこうして料理をするからには、本格的に!!』、との張々湖の提案である。
 最初は指南役を渋っていた彼も、今ではすっかり乗り気だった。
「メニューに合わせた材料は、ワテとジョーとジェットとで買出しに行ってきたから全部揃ってるハズアル。それでは各自……調理、スタートアルっ!!」
 かくして――のべ4時間に渡る戦士たちの激闘は始まった。









 まず初めに秤を手に取ったギルモアは、ピザの生地となる薄力粉やベーキングパウダーなどを、張々湖のメモに書かれたとおりに慎重に計量し、そのひとつひとつを順番に大きな銀のボールの中へと落としていた。
「牛乳は、と……まだほんの少しだけ足りんかのう。いやしかし、暖めたときの蒸発分を計算すると……」
 コンマ何グラムでも誤差が生じないようにと非常に細かく計ってしまうのは、やはり科学者たる所以であろうか。
 そのボールを大きな腕で抱え込むようにして生地をこねているのは……もちろんジェロニモ。
 『注:くれぐれも力を入れ過ぎないように、アル』。
「ムウ……」
 そう書かれたメモと睨めっこしながら作業する彼は、力加減に苦戦しているようだった。



 ポテトサラダに使うジャガイモやニンジンなどの皮むきは、イワンの最初の仕事である。
 彼は揺りかごに乗ったまま、得意の観念動力(テレキネシス)で自在に包丁を操り、次々と野菜をざるに積み上げていった。
「おっ、さっすがイワン! 鮮やかな手つきだねぇ! ……って、イワンの場合は手じゃないから……さしずめ頭つき??」
 デザートのイチゴのムースをピュンマと一緒に手がけるブリテンが、ついイワンの包丁さばきに見惚れていると、
「いいから! くだらねぇこと言ってねぇで、手を動かせ、手を!!」
と、ジェットが包丁を片手に、眼に大粒の涙を浮かべながら半ばヤツ当たりともいえるような抗議をした。
 ――そう、ジェットと、そしてジョーの2人は、メインディッシュであるスコッチエッグに使うタマネギのみじん切りと大格闘の真っ最中なのである。
 こうなると黙ってはいられないブリテンが、すかさず2人を茶化しに出た。
「いよっ、2人とも! 涙がよく似合うじゃないの!!」
「うるせえっ! 人が真剣に……おわっ!! つい手で擦っちまったら余計に眼が〜!!」
 途端に、キッチンにはドッと大爆笑が起こった。
 そんな中、必死に笑いを堪えながらジョーが言う。
「ジェ、ジェットってば……タマネギを触ったその手で、眼なんて擦るから……」
「な、何だよジョー! お前だって涙ボロボロじゃねーか!!」
「そうなんだけどさ……!」
「チェッ! ……なぁイワン、野菜の皮むくついでに、こっちもやってくれよ!」
 笑ってばかりのジョーを他所に、イワンに助けを求めたジェットだったのだが……彼はそんなジェットに対し、涼しい顔でこう応えた。
「アレ? ボクノ包丁サバキナンテ、クダラナインジャナカッタノ?」
「!! お、おいおいっ、あれはただ、ブリテンのどうしようもないセリフに言っただけで……!!」
 その後、ジェットの懸命の弁明が続く間中、キッチンにみんなの笑い声が絶えることはなかった。





「……うん、とりあえずこんな感じアルね」
 落ち着きを取り戻したキッチンで、普段はあまり中華以外作らない張々湖が、他のメンバーの様子を見つつも着々とミネストローネに挑戦していると、『顔を洗ってさっぱりした』というジェットが、すぐ傍でタマネギからの開放感に浸っているようだった。
「あ〜、やっとみじん切りが終わったぜ! さて、タマネギを炒めるのはジョーに任せて、俺の次の仕事は、っと……なになに、『卵を火にかけ、ゆで卵を作る間に、スコッチエッグ用のソースを作る』、か」
 口笛を吹きながら鍋と卵を取りに行く途中……ジェットはふとある考えを思いついて、ちょうど冷蔵庫の近くで黙々と作業をしているハインリヒの方に歩を進めた。
「――なあ、ハインリヒ」
「ん?」
 彼は、挽肉とつなぎになる卵にパン粉、それからナツメグなど多くの調味料を混ぜ合わせ、微妙に味を調えながらスコッチエッグの生地を作っているところだった。
「ちょいと聞きたいことがあるんだが――」
「何だ、改まって」
「いやな、ゆで卵って……電子レンジでも作れるのか?」
「……は!?」
 カゴの中の調味料に手を伸ばしかけていたハインリヒの手が、思わず止まる。
 と同時に、彼はそこで初めてジェットの方へと視線を向けた。
「ホラ、もしできりゃあ、その方が早いかな〜……なんて思ってさ」
(じ、冗談かと思ったが……)
 どうやら本気で尋ねているらしいジェットに、ハインリヒはすでに飽きれるのも通り越し、『やってみたらどうだ?』――と言いたくなったのだが。
 後々無残に弾け飛んだ卵たちの処理を考えた彼は、どうにかそれを堪え――たった一言だけ、この言葉を彼に告げた。
「……ムリだろ」









 時計の針がPM6:30をまわったころ……フランソワーズがレッスンを終えて研究所に帰宅すると、玄関ではジョーが白い衣服のまま笑顔で彼女を出迎えてくれていた。
「お帰り、フランソワーズ」
「た、ただいま……。ジョー、ど、どうしたの? そのカッコ……」
「いいからいいから……さ、上がって。みんなも待ってるよ」
「え……?」
 ジョーがスッと彼女の荷物を持ち、そのまま彼女をリビングへとエスコートすると……。
「――!!」
 サラダ、スープ、ピザにメイン……テーブルにはたくさんの豪勢な料理の数々と、花瓶に生けられた色とりどりの花束が所狭しと並んでおり、その周りにはジョーと同じ服装をしたジェットたち全員の姿もあった。
「す、すごい……おいしそうなお料理……! み、みんなが……イワンや博士たちまでがそんなカッコをしてるってことは、これ、もしかして――?」
「そうアル! み〜んなで作ったアルよ!!」
「ほ、ホントに……!?」
「今日は、日本では世の男性陣が女性にバレンタインのお返しをするホワイトデーだ、っていう話をジョーから聞いたもんでね」
 ブリテンの言葉に、フランソワーズが思わず口元で両手を合わせながらジョーを振り返る。
「ホントは部屋を真っ暗にしてキミを驚かそうとも思ったんだけど……。キミをヘンに不安にさせたりしないようにしようと思ってね」
「ジョー……!」
「さあさあ、本日の主役はこちらへどうぞ」
 そう言って、ピュンマがまだ半分夢見心地のフランソワーズを上座の席へ勧めると、ハインリヒがまるでソムリエのように慣れた手つきで赤ワインをグラスに注いだ。
「本日のワインは、フランス産の85年ものになります」
「ハインリヒったら……!」
「さ、それじゃあ料理が冷めないうちに……早速乾杯といきますか!!」
 ジェットの号令でそれぞれ席に着いたメンバーたちは、ワインの入ったグラスに手を伸ばした。
「では僭越ながら我輩が……」
 と、ブリテンがグラスを高々と掲げた――そのとき。
「ちょ、ちょっと待って!」
「アラ?」
 ふいに、フランソワーズがブリテンの言葉を止めて、カタンと静かに席を立った。
「フランソワーズ?」
 ジョーを初めとした全員の視線が、フランソワーズに集まる。
「ご、ごめんなさいっ! あ、あの……あまりに突然のみんなからのこの上ないプレゼントにびっくりしちゃって、今はこんな月並みな言葉しか出てこないんだけど……。今日は――今日はホントにありがとう!!」
「フランソワーズ……!」
「乾杯の前に、どうしてもこれだけは……この気持ちだけは、みんなに伝えておきたくて……」
「あいやあ! そんな風に言ってもらえるだけでも、みんなでがんばったかいがあるというものアルよ!!」
「ワシもまさか、自分が料理で誰かを喜ばせる立場に回るとは……想像しておらんかったがな」
 そんなギルモア博士の何気ない一言が、リビングに明るい笑い声を呼んだ。
「え〜さて。……姫の喜びの声も聴けたことだし、改めまして――」
 ブリテンは、コホン、と間にひとつ咳払いを挟み……。
「乾杯!!」
「カンパ〜イ!!」









 夜の海岸には、ジョーとフランソワーズの他には誰の姿も見えなかった。
 2人は、あのまま部屋で始まった約1ヶ月振りのパーティーをほんの少しだけ抜け出して、夜風に当たりにここまで降りてきたのである。
 最も、昼間でもこの人里離れた海岸に、ジョーたち以外の者が来ることは滅多にないのだが……。
「やっぱり、夜はまだ少し冷えるけど……ずいぶんと風が暖かくなってきたわね。春ももうすぐそこまで来てるのかしら」
 藍色のショールと亜麻色の髪をその風になびかせて、フランソワーズは波打ち際をフワッと踊るようにターンした。
 『みんなの熱気に当てられたみたい』と言っていた彼女は、本当に気持ちよさそうに海風に身を任せているようだった。
 そんな彼女を、まるで幻想世界の妖精にでも出逢ったかのような眼差しで見つめるジョー。
 彼は無言のまま、つとポケットに手を忍ばせ――そっと彼女の名前を呼んでみた。
 妖精が驚いて逃げ出してしまわないように、大切に……小さな声で。
「フランソワーズ」
「え?」
 振り向いた彼女の瞳に、ジョーが差し出した小振りの包みが映る。
 淡いピンク色の包み紙が、月明かりに照らし出されてより一層鮮やかだった。
「ジョー……これ……!」
「ボクからの、もうひとつの……『特別な』プレゼント」
 そう言って――微笑みながらウインクするジョーを見て。
 最初はキョトンとしていたフランソワーズも、すぐにハッとなって『……もう!』と軽く拗ねたように微笑んだ。
「ね、ジョー、開けても……いい?」
「ああ、もちろん」
 フランソワーズが丁寧に紙を広げ、紺のベルベット・ケースを開けると……。
「……!」
 そこには、美しく繊細な細工が施されたシルバーに輝く腕時計が収められていた。
「素敵な時計……!」
「これ……実はボクのとペアなんだ」
「え……?」
「ちょっと貸してみて……」
 ジョーはフランソワーズの左手を取ると、その時計を彼女の華奢な腕にはめてあげた。
 ――そして。
「男性用と女性用でデザインが結構違うから、パッと見にはわかりにくいんだけど……」
 そのまま彼女のチェーンについたクレッセント・ムーンの飾りと、自分の――彼女のものよりは少しがっしりした感じがする、やはりシルバーの輝きを放つ腕時計のクロスの飾りとを、惹かれ合うパズルの欠片同士のように重ね合わせた。
「……ね?」
「ホント……すごく綺麗……!!」
 月明かりの下――。
 しばらくそのまま完成されたオブジェに瞳を奪われていたフランソワーズが、ふと改めてジョーの方に向き直ると、その可憐な唇をゆっくりと開いた。
「ありがとう、ジョー……。ジョーからこんな素敵なプレゼントがもらえるなんて、私……!」
 フランソワーズは、自分の胸の奥がどうしようもないほど熱くなるのを、どうしても抑えることができなかった。
 ジョーを真っ直ぐ見つめる蒼い瞳が、ほんの少しだけ潤んでいる。
 彼は、そんな彼女がたまらなく愛しくなって、思わずその腕に彼女の身体を抱き締めようと……したのだが。
 そのとき突然、フランソワーズは何かにびっくりした様子を見せると、慌ててくるりと身体を反転させて、そっぽを向いてしまった。
「???」
 不審に思って、ジョーが辺りを見回すと……。
「あ゛……っ!!?」
 何と、部屋で盛り上がっていたはずのジェットやブリテン、それから張々湖にハインリヒの4人が、テトラポットの陰からしっかりこちらを覗いているではないか。
「み、みんな……っ!!」
「いやっ、これは失礼! 我輩たちは別に、2人の邪魔をするつもりは決してなかったんだが……」
 決まりの悪そうに頭を掻きながら、控えめに陰から出てくるブリテンとは対照的に、ジェットは半ば開き直ったようにジョーにこう言った。
「よかったなぁ〜、ジョー! 無事にマフラーのお返しができてよ!!」
『えっ!?』
 彼のそのセリフに驚いたのはジョーだけではなく、もちろんフランソワーズも一緒だった。
「な、何でジェットが知って……!!?」
 しかし、ジョーのその質問に応えたのは、ジェットではなく……。
「何でって……ここしばらくのお前の様子を見てりゃ、誰にだって一目瞭然さ」
「ハ、ハインリヒ!! じゃ、この前ボクにあのマフラーのコトを聞いたのは……まさか、知ってて!?」
「いや――でも、あれで確信したのは……確かだがな」
「そ、そんな……!」
 ジョーが真っ赤になりながら困ったような表情でフランソワーズの方を見遣ると、彼女もつられたように頬を赤らめて彼に視線を送り返した。
「だっ、だいたいみんな、どうしてここに……」
「おっと! ジョー、先に言っておくが……俺はここにはジェットに連れて来られたんだぜ? 俺は覗きなんて趣味じゃないってあれほど……」
「あ、てめぇ、今さらそーゆーコト言うワケ? だいたいお前が……」
「まあまあ2人とも、ケンカは止めるヨロシよ〜」
「いいんじゃないの〜? たまにはさぁ」
 そんな風に、お互いの気持ちを素直に思い切りぶつけ合うジョーたち5人の姿を、フランソワーズは横から楽しそうに――そして暖かい眼差しでいつまでも見守り続けていた。




                                    -Fin -









    〜 epilogue 〜


『ねえ、ジョー。ひとつだけ……聞いてもいい?』
『ん……?』
『どうして……『時計』を選んでくれたの? 他にも、ペアのものなんてたくさんあるのに……』
『そ、それは……』
『――それは?』
『それは……今は、秘密』
『え? ちょ、ちょっと待って! ……ジョーっ!!』



 ……フランソワーズ。
 いつか、もう少しボクが大人になれたら……そのときこそキミに教えるよ。
 ボクがキミへのプレゼントに、『時計』を選んだ理由――。
 それは……。
 これから先の未来もずっと、キミと同じ時間(とき)を過ごせたら……そんな願いを――単純ではあるけれど、ボクにとってはとても大切な願いを込めた贈り物だったんだ、って……。

 

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