confession ~ vol.1 ~



 澄み切った大空に、太陽が眩しく輝いている。
 心地よい海風が優しく静かにそよぐ今日も……昨日と同じく、とても穏やかな1日になりそうだった。
 ……少なくとも、この朝の風景までは。





「……それじゃ、行ってきます」
「博士、イワンをお願いしますね」
「こっちのことは心配せんでも大丈夫じゃ。2人とも、気をつけてな」
 夜の時間に入っているイワンを優しく抱きかかえたギルモアが見送る中――。
 ジョーとフランソワーズは小さく微笑みながら頷き合うと、ギルモア研究所を後にしてガレージへと向かって行く。
「あれ? あの2人、どっか行ったんですか?」
 まだ眠そうな顔でちょうど2階から降りてきたジェットが、玄関先のギルモアに尋ねた。
「ああ……ショッピングがてら、ジョーがフランソワーズに日本を案内するってな。戦いずくめの毎日じゃったからなぁ……たまには息抜きでもせんと」
「へぇ……」
 ――相変わらず、仲睦まじいことで。
 微笑ましい光景に口笛を鳴らしながら、ジェットはギルモアを追ってリビングへ続く廊下を軽い足取りで進む。



 ブラックゴーストとの激しい戦いに、とりあえず一時的とは言え、からくも勝利を収めた彼らが此処(研究所)に落ち着くことができてから、まだ日は浅かった。
 戦いの最中(さなか)でありながらも、お互いにお互いをそれとなく意識している風だったジョーとフランソワーズが、2人きりで『休日』を過ごそうとしていることは……。
 優しく可憐な紅一点をジョーに独り占めされるのは複雑な気分だったが、何よりその紅一点の『想い』に気づいてしまった今となっては、ジェットにとっても何となく微笑ましい出来事なのである。



 リビングには――めずらしくといえばめずらしく、ジョーとフランソワーズを除いた他のメンバーたちが勢揃いしていた。
 ハインリヒは雑誌を、ピュンマは本を片手にコーヒーを啜り……真剣な顔をして唸っているグレートと張々湖のチェス勝負の行方を、ジェロニモがなぜか不思議そうに見守っている。
 ジェットは部屋続きのキッチンで簡単なピザトーストとコーヒーを用意し、空いていたソファー……ハインリヒの隣に腰を下ろした。
「今頃朝飯……いや、『もう』昼飯か?」
 ちょっぴり皮肉めいたハインリヒの言葉に、ジェットはまぁな、とトーストを口にくわえ、手近にあった新聞紙をバサッと開いた。
「たまにはいいだろ?」
「そうだな。いつもは完全に昼飯だからな」
「そーそー」



 一頻り無言のまま……グレートと張々湖の多少の唸り声と、紙の擦れる音だけが部屋に響いていた中で、トーストの最後の一口を口に運んだジェットが、
「しっかしあの2人もなかなかどうして……結構うまくやってるみたいだな」
と、何の前触れもなくそう言葉を発した。
「ん?」
 突然何の話だ?と言わんばかりのハインリヒが、手にしている雑誌からジェットに視線を移す。
「ジョーとフランソワーズのことさ。2人とも……特にジョーのヤツが、俺たちに気を遣ってんだか何だか知らねぇが、妙に奥手だからなぁ〜。見てるこっちがイライラしちまうくらいによ」
「……」
 ジェットに賛同してしまうのはなぜか何となく不本意ながらも、この件に関してはハインリヒも、『確かに……』と、つい相槌を打ちそうになる。
「そんなあいつらが休日に2人でどっかへ遊びに行くなんて、こりゃーずいぶんといい関係になってきたんじゃ……」
「あの2人……たぶんあの様子じゃまだ何もないな」
 いい調子で盛り上がってきた話の途中に、不意に割り込んできたハインリヒの意外なセリフ(言葉)を聞いた途端……ソファーに寄りかかってコーヒーを口にしようとしていたジェットは、思わずそこから滑り落ちそうになった。
「……うそ」
 信じられないという表情のジェットに、ハインリヒはどこか冷めたような視線を送るだけで何も答えない。
「ま、まっさかぁ〜!! いくらなんでもキスぐらいは……」
 なおも食い下がるジェットに対し、今度は視線を逸らしつつ、右手を軽く横に振るハインリヒ。
「……マジ?」
「あの2人の関係を見てれば、それくらいはわかるさ。……第一、今までにそんなヒマが……あったと思うか?」
「そ、そりゃあ……」





 そう言えば……いつだったか、ジェットはジョーに聞いてみたことがあった。
 あれは――戦いの際、フランソワーズが脚にちょっとしたケガを負ったとき……彼女の部屋で傷の手当てを終えたジョーが、リビングへと戻ろうとした途中……だったと思う。



『よう、王子様。麗しき姫君の傷の具合はどうだい?』
 背後からいきなりそんな声をかけられて、驚きを隠せないまま後ろを振り向くジョー。
『……っ、ジェット!? か、からかうのはよしてくれよ』
『ピッタリの形容詞だと思うけどなぁ……いや、王子様っていうよりは……姫を守るために勇敢に戦う騎士(ナイト)の方が合ってるか?』
『そ……そんなんじゃないったら!』
『まぁまぁ、そんなに照れなさんなって。お前さんたちがいい雰囲気なのは、みんな暗黙の了解なんだから』
『〜〜〜っ!!』
『……で?』
『?』
『もうキスぐらいは済ませたんだろ?』
 突然のジェットの言葉に、ジョーは途端に顔を真っ赤にして首を振る。
 それを見たジェットが半ばあきれ気味に、
『……あのなぁ。フランソワーズだってお前が何か態度で示してくれることを待ってると思うぜ? まさか、彼女のことは仲間としか思ってません、なんて言い出すんじゃねぇだろうな?』
『そんなこと……!』
 思わずそう言いかけて、ジョーはしまった、と思った。――が、時すでに遅し。見ると、ジェットが『やっぱりな!』と言わんばかりの眼で自分を見つめ返している。



 当のジョーはと言えば……。
 ――確かに、彼女に惹かれているということは間違いなかった。
 彼女の限りない優しさに。
 内に秘めた強さに。
 彼女を危険から救うために、その華奢な身体を自分の胸に抱き寄せたことも何度かあった。その度に、勤めて冷静になろうとしている自分がいることにも気づいていた。
 ……でも。
 それが、彼女を仲間として守りたいからなのか、彼女に対して深い特別な感情を抱いているからなのか……実のところ、ジョーにはまだよくわからなかった。


 ……もちろん、ジェットはそんなジョーの心情を知る由もなかったのだが。





 ――それにしたって、あれからもう2ヶ月近くもたってるっていうのに……。
 確かに戦いばかりの毎日ではあったが、2人きりになるチャンスは多少なりともあったはずだ。
 ……まあ……2人でゆっくりとムードを作るほどのヒマがあった……とは言わないが。
「はあぁ……ったく何やってんだか……ジョーのヤツは……」
 深いため息とともに、ジェットが天を仰ぐ。と、そのとき……。
「……こうなったら、ひとつ我輩たちであの2人を素直にさせる……って言うのはどうだ?」
 言いながら、チェック・メイト、とナイトの駒を置くグレートに、一同の視線が集まった。
 ……誰もが目を丸くしている。
「フランソワーズはともかく、あのジョーがその気になるのを待ってたら……それこそいつになるかわからんぜよ?」
 例によってオーバーなジェスチャーとともに、グレートがジェットとハインリヒの顔を交互に見遣る。
「そ、そりゃあそうだけどよ……」
 口篭もるジェットの横から、ギルモアが口を挟んだ。
「いや、しかし……じゃからといって、こればっかりは本人同士の問題じゃからして……」
「甘い甘い! 甘いですよ、博士は! 今までだって、本人同士に任せっぱなしだったから、こんな状態が続いてるわけで……。この調子で放っといたら、いつまでたってもこのまんま、進展なんて望めませんよ!」
「う、うむ……」
 確かに的を射ているグレートの理論に、押され気味に頷くギルモア。
「まあ、お互いに惹かれ合ってるのはどう贔屓目に見ても間違いないだろうし……ちょっとしたキッカケさえあれば……とは俺も思うが……な」
「ハ、ハインリヒまで……!」
「ホラ、せっかく世界も平和に近づいたことだし……チャンスは今しかないっ! ね、博士! ここはひとつ、あの2人にもいい感じになってもらえば……!!」
「……ブリテンはん。あんた……楽しんでるアルね?」
「うっ!!」
 張々湖の鋭い突っ込みに、グレートが息を詰まらす。
「そ、それは……」
「でもまぁ、それはともかくとしても、ワテもジョーとフランソワーズの仲を良くするのに協力する、ってコトには賛成アルよ」
「大人……! お前さんも、話がわかるようになってきたなぁ!!」
 さも嬉しそうに、グレートは張々湖の両肩をぽんぽんっと叩いた。
「……で? 具体的にはどーすんのよ?」
 何だかんだ言いつつも、ジェットもかなり乗り気らしい。
「う、う〜〜〜ん……そうだなぁ……」
 グレートはしばらく考えた後、ポンッとひとつ手を打って、
「とりあえず、こういう作戦は……」
と、何やらひそひそと具体案を喋り出すのだった。



 そんな彼らの様子を少し遠目で見つめながら、ピュンマとジェロニモは――。
「何だかあまり乗り気がしないなぁ……。妙なことにならなきゃいいけど……」
「うむ……」
 お互い、何だか拭い切れない不安を胸にしつつ――心配そうな表情を隠せなかった。



- To be continued -

 

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