†† Moon.1 Joe Labyrinth ††

 

 ――夢を……見ていた。
 大切な大切なキミが、ボクのそばから――まるで霞のように、儚く消えてしまう夢。

   

 ……『キミがボクのそばから消えてしまう』?
   

 ――違う。
 その表現は……適切ではないのかもしれない。
 なぜなら、今、ボクの瞳に映る彼女は……最初からボクのことなど、知らないのだから。


   

   

   

 少し赤みがかったブロンド。
 ライトグリーンの瞳。
 すらりとした長身に、端整な顔立ち。


 真っ暗な闇の中、1人佇むボクの目の前を、何気なく通り過ぎていった彼女。
 亜麻色の髪をそっと風に靡かせた彼女が、遠くの色鮮やかな世界で戯れるようにして腕を組む相手は……そんな面差しを持つ、彼。


 蒼く澄んだキミの瞳が、ボクじゃないその男を愛しそうに見つめ。
 ふんわりと柔らかなキミの桜色の唇が、ボクじゃないその男の名前を優しく呼ぶ。


   

 サイボーグとして、戦いの道具として、この哀しい宿命に翻弄されることさえなければ。
 ――キミは、平和で穏やかな時間(とき)を……こうして……彼と。


   

   

 ……そうだね。
 彼ならきっと……キミを幸せにしてくれた。


 彼はこんな風に、いつでもキミを微笑ませることができるけれど。
 ボクはそう……いつもキミを泣かせてばかり。


 彼はキミの大好きなバレエを、『共に踊る』という最高のカタチでキミにプレゼントできるのに。
 ボクがキミにあげられるのは……キミが最も嫌う、地獄のような戦場への招待状だけ。


   

   

   

 『この刻の狭間で繰り広げられる光景は、すべて夢』


 だけど……。
 もしも黒き亡霊の影が、キミを深い闇の中へと連れ去らなければ。
 ――いや、例え……望むと望まざるとに関わらず『与えられてしまった』その運命からは逃れられなかったとしても、後にボクたちと共に戦う道を選ばなければ……。


   

 ……キミはこんなにも……幸せだった?


   

   

   

 『コノ刻ノ狭間デ繰リ広ゲラレル光景ハ、スベテ夢』


 ……本当に?
 本当にこれは、夢、なのか?
 淡く鮮やかに彩られたあの光景こそが、在るべきキミの未来の姿ではなくて?


   

 ――わからない。
 ボクには、もう何も。 


   

 ……ただ。
 キミをいつ果てるとも知れない戦いの渦に巻き込んでしまう切欠を作ったのは、紛れもないボク。


 ……ボクがキミを光から遠ざけ。
 ボクがキミから、すべてを奪った。


   

   

   

 此処にいることは許されない存在のボク。
 虚空に浮かぶ月の光も、ボクを照らし出してはくれない。


   

 蒼い月が、ボクに涙し。
 ――紅い月が、ボクを嗤う。


   

   

   

 ――フランソワーズ。


   

 信頼・絆・思いやり……そして、愛。
 目に見えない不確かなものなど、何ひとつとして信じようとしなかったボクの元へ舞い降りた、慈愛の天使。


 ボクにとって、たった1人の――心から大切な、女性(ひと)。


   

 だからキミには、その優しい微笑みをいつも絶やさずにいて欲しい。
 他の誰よりも幸せな時間(とき)の中で……安らぎを感じていてもらいたい。


 ……けれど。


   

 ボクではキミを……そんな光溢れる未来へは導いてあげられない――。
 


 

 

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