wait for ...
 
― Story by Shion ―

 

 

「いらっしゃいませ。当シーサイドホテルレストランへようこそおいでくださいました。――ご予約の島村様ですね。お連れ様はまだお見えではないようですが……」
「あ、もうすぐ来ると思いますから……こちらで待たせていただいてもよろしい……ですか?」
「かしこまりました。では、こちらのお席へどうぞ」

 丁寧に案内された、奥の一角――。
 窓際の予約(リザーヴ)席に腰かけると、フランソワーズはそこから辺りの夜景を一望することができた。

 闇色に染まった外の景色は雨模様。
 あいにくの天気ではあるけれど……そんな重く暗い雰囲気とは逆に、間もなく目の前に現れるであろう大切な『彼』を待ち焦がれるフランソワーズの心は、とても明るく弾んでいた。





『フランソワーズ。今度……よかったら、たまには2人で食事へ……』

 ジョーがどこか照れくさそうな表情(かお)で突然そう言い出したのは、2日前の夜、彼が彼女の部屋を訪ねてきたときのことだった。
 ここのところ、ほんの些細な事情が重なり、何かとゆっくり『2人きり』になれる機会が持てずにため息を落とすことが多かったフランソワーズにとって……。
 ジョーのその言葉は、何よりも嬉しかった。





 窓の外を眺めながら、知らず微かに綻ぶ彼女の唇。
 彼女の優しげな微笑みが周囲の注目を集めていることに、当のフランソワーズ自身はまったく気づいていなかった。

 とびきりの美女が、たった1人でホテルのレストランのテーブルにつき、頬杖をつきながら人待ち顔で遠くを見るともなく見つめている。
 ……さらりと肩を流れ落ちる亜麻色の髪と、僅かに伏せた蒼い瞳がたまらなく印象的で――。

 彼女に釘付けの客……男性客たちは、彼女の仕草のひとつひとつや魅力的な存在そのものをウワサし合い。
 女性客たちは、彼女がいったいどんな人物を待っているのかを思わず話題にしていた。





 ――そのとき、レストランの入口付近に小さなざわめきが起こった。
 ざわめきの中には、懸命に声のトーンを落とそうとしながらも、はしゃいだように囁き合う女性の声が多いだろうか……。

「――あ」

 一瞬、フランソワーズの表情が何かに気づいてパッと華やぐ。
 彼女の周りの席の客たちも、つられて彼女の視線の先へと目を向けると……。


「フランソワーズ」


 そこには、長い栗色の前髪で片目を隠し、残されたもうひとつの瞳で『フランソワーズ』という名の亜麻色の髪の女性へこの上なく優しい眼差しを贈る凛々しい青年の姿があった。



「ごめんよ、フランソワーズ。……待ったかい?」
「ううん、私も今来たばかりなの」
「よかった。ラストのマシンの調整に少し時間が掛かっちゃって……」

 言いながら、ごく自然にフランソワーズの前の空席に溶け込むジョーの様子を、若い女性たちが羨望の眼差しで見惚れ……。
 男性たちも、女性たちとはまた違った意味での羨望と、そして苦笑の入り混じった表情を浮かべていた。

 そんな周囲の反応も、今のジョーとフランソワーズの瞳には映らない。
 お互いの瞳の中には、ただお互いだけが棲んでいて――。





 遠く離れ離れだった恋人同士が、久々に訪れた再会の刻を噛み締めるかのように……。
 心から幸せそうに過ごす2人の座るテーブル(空間)が、まるで別世界のように色鮮やかに、また暖かく映るのは、客たちの目(スクリーン)の中だけではなかった。
 そう……すぐに食前酒のワインのオーダーを取りに行くべきソムリエでさえ、しばらくは遠くから2人だけの時間(とき)を大切に見守るほどだったのだから――。





Gallery / Novel