Scene de la neige
 
― Story by Shion ―

 

 

 仰ぐ天には、月の姿も星の姿も見えない――とある一夜。
 ……けれど、代わりに音もなく降り続ける『天からの贈り物』が、辺りを目映い銀世界に染め上げ……。
 冷たいはずのその光は、淡い陽炎のように2人を暖かく照らし出していた。



「綺麗……! ね、見て、ジョー! 雪がこんなに……!!」

 鮮やかに映える翠色のネグリジェの裾を翻し、あまりに純粋な真っ白い舞台の上でふわりと踊るフランソワーズ。
 ジョーはそんな彼女を後ろから愛しげに見つめ、

「フランソワーズ、そんなにはしゃいだら危ないよ」

と、微笑いながら声を掛ける。


 ――胸の前に揃えた両手で、紅いマント・ジャケットを押さえるようにして。

「まあ、ジョーったら……まるで私が小さな子供みたいじゃない」

 真っ直ぐにジョーの方へと向き直ったフランソワーズは、少し拗ねたような表情で彼の顔を見上げた。

「はは……ごめんよ。だけど、やっとあの高熱も引いて、カゼもよくなってきたばかりなんだから……」

 ――やっぱりムチャはさせられないよ。

「それに、ホントはまだキミをこんなに寒い外へ連れ出すことだって迷ったんだよ。でも……キミがどうしても、この雪景色を見たいって言うから……」
「くすっ……ありがと。でも、もうだいじょうぶ!」

 その言葉通り、体調はずいぶん回復したということをジョーに見せようと、フランソワーズはもう一度優雅にターンをし始めた。
 もちろん、自分を心から気遣ってくれるジョーの心配事を――少しでも減らすために。

「あなたがずっとそばで看病してくれたから……ね、こんなに元気に……きゃっ!?」
「っ! ほら……!!」



 ――瞬間。
 柔らかな雪に脚を取られてしまったフランソワーズの右手を、ジョーの右手が力強く引き寄せる。
 よろめいた彼女の身体は、そのままジョーの左腕――そして広い胸の中へと吸い込まれるように収まった。

「あ……」

 片膝を雪の上についたジョーの脚に背中を支えられ、仰向けになったフランソワーズの蒼く揺れる瞳に、はらはら舞い落ちる粉雪といたずらっぽく微笑うジョーの笑顔が映る。

「……言ったろ。あんまりはしゃぐと危ない、って」
「もう……意地悪!」

 思わず顔を赤くしてそっぽを向こうとするフランソワーズを抱いたまま、小さく微笑い続けるジョーがふいに立ち上がった。

「きゃ……ジっ、ジョー!?」
「そろそろ部屋に戻ろう。またカゼを拗らせたりしたら大変だからね」
「お、降ろして、ジョー! 1人でも歩けるわ」
「ダメダメ。病人は大人しくしてなくちゃ。それに――」
「……それに?」

 至近距離にまで近づいたジョーの伏せた長い睫毛を、フランソワーズが下からおずおずと見つめる。

「……こうしてた方が暖かいだろ?」

 ――そう言って。
 ジョーは何の前触れもなくフランソワーズへさらにそっと顔を近づけると……。
 彼女を抱きしめる腕にゆっくりと力を込めた。






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